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2017.01.25 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その19)

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之

はじめに

 これまで18回にわたり、総務省に設置された「地方議会に関する研究会」の最終報告書である『地方議会に関する研究会報告書』(以下『報告書』という)を検討した。前回は、「第V章(1) 地方議会における政党及び選挙制度のあり方」の「第2節 現行の選挙制度が有権者及び議員の行動に及ぼす影響」を論じた。今回は、それを受けた「第3節 有権者の実効的な選択を可能とする選挙制度のあり方」を論じていきたい。

選択にかかる問題点

 『報告書』は、「(1)実効的な候補者の選択」という項目を掲げているように、「有権者が的確に判断・選択をできるような選挙制度」を重視しているようである。「第2節」で指摘された問題点は、著しく大規模団体の場合、有権者としては、つながりの希薄な候補者が多いから、選択のしようがないということであり、あるいは、定数が非常に多ければ、当選ラインが低いので、ほとんど選択の意味を持っていない、ということのようである。
 もっとも、地域コミュニティと希薄な候補者が登場するという大規模団体の問題は、選挙制度を小さく分けようと、不可避である。そもそも、国政レベルでは、ほとんど知りもしない候補者ばかりである。有権者としては把握のしようもない。1億人の人口で定数500とすると、議員1人当たり人口20万人である。人口20万人では地域コミュニティにはなりようがない。また、選挙区を細分化するには小選挙区にせざるを得ず、これは後述の別途の問題を引き起こす。都道府県も、およそ地域コミュニティの規模を超えている。
 地域コミュニティが現実的に論じうるのは、結局、市町村レベルだけであるが、これも、平成の大合併などで大規模化を進めすぎたため、同様の問題を抱えている。この問題を解消したいのであれば、選挙制度をいじるのではなく、市町村分割をするしかない。ただ、あえて市町村分割をせずに地域コミュニティに合わせて候補者を生み出すには、市町村をいくつかに分けた地域コミュニティごとに選挙区とするという処方箋が生まれよう。この点は、『報告書』が「② 選挙区の設定」として、採り上げているので、後述しよう。
 定数が著しく大きな超大選挙区制の場合、大した得票率でなくても当選できるので、競争性が低いように思われる。端的にいって、例えば、定数49であれば、2%(=1÷(49+1))の得票率で必ず当選できる。実際には得票はばらけるので、1%以下でも当選できる。これが、定数4の中選挙区制であれば、最低確実の当選ラインは、得票率20%である。定数1の小選挙区制にすれば、もっと当選ラインは上がる。小選挙区・中選挙区ともに、ある程度の得票率が取れない候補者は落選する。ましてや、得票率2%などという候補者は単なる泡沫(ほうまつ)候補でしかない。ところが、超大選挙区では、そうした泡沫候補が当選してしまうのである。選挙とは当落を選択するところに意味があるとすれば、超大選挙区制は選択の効果を発揮できないということになる。
 もっとも、これは見かけの現象かもしれない。総定数49を12の中選挙区に分ければ、確定数は4~5となる。こうすれば、得票率20%くらいの候補者しか当選できないから、得票率2%の泡沫候補は落選させられる。とはいえ、結局のところ、各候補者が集めなければならない絶対的な票数はほとんど変わらない。総人口と総定数が同じだからである。つまり、複数の選挙区に分ければ、広い地域から薄く集票する候補者だけは落選する、ということである。むしろ、定数49の超大選挙区は、広い地域から薄く集票する候補者も、狭い地域から厚く集票する候補者も、ともに一定数の票数を集めれば当選する。つまり超大選挙区制の方が、選択肢は広いのかもしれない。

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