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2017.01.13 政策研究

「私とまちのドラマ」を記録した岡崎百景

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元日本経済新聞論説委員 井上繁

 「小学校低学年の頃、岡崎市内を3度転居しました。2度目の転居の場所が六供の配水塔の近くでした。昭和23年(1948年)頃だと思います。当時は、周りには何もなく、見上げると青空に巨大な石づくりの塔がいつも僕を見ていました。浄水場は、中に貯水場があり、周りは白砂に覆われた砂場が広がっていました。石づくりの塔には、ツタが一面にまとわりつき、夏は青々と、秋は紅葉し、雄大な円形の塔の姿があります。日本中探してもこんな配水塔はないと思います」
 これは愛知県岡崎市が2016年10月に発表した「岡崎百景~私とまちの100のドラマ~」の一つ、「子供の頃の思い出 石づくりの六供配水塔!」の市民による推薦文である。
 岡崎百景は、2016年に市制施行100周年を迎えた同市がその節目を記念して、次世代に伝えたい「岡崎の今」を表す景観を選定した事業である。公募に応じた市民による岡崎百景推薦人会議が選定の方法や、百景の評価の視点を決めるなど市民参画を徹底した。
 同市はすでに、市内の名所、旧跡を網羅した「岡崎観光きらり百選」を選定している。岡崎百景は、市民一人ひとりが未来に残したい景観や、それを巡る体験や思いを市民全体に伝えて共感を広げ、まちづくりにつなげることに重きを置いている。前者は観光客へのアピール、後者は地域のまちづくりを目的にしているという違いがある。
 市内在住者と在学、在勤者を対象に募集した結果、趣旨に賛同した推薦人が102人集まった。2014年11月のキックオフフォーラムを手始めに2年間かけて多様な取り組みを行い、2016年10月の百景の発表にこぎつけた。候補は122の景観が推薦された。推薦人の中には、1人で5~6点の景観を推薦した人もいる。また、連名での推薦が2点あった。
 選定に当たっては、小中学生を含め、有志による市民投票を行った。あらかじめ5つの評価の視点を定め、それによく当てはまるものを選ぶ方式である。評価の視点は、①知られざる岡崎の姿がある(発見)、②人に伝えたくなる物語がある(共感)、③その場所ならではの特徴がある(地域性)、④市民が主体となって支えている(市民性)、⑤失いたくない当たり前の大切さを教えてくれる(気づき)――である。投票では5つの視点に該当する景観を1~3点ずつ選ぶため、1人が最大15票投票できることになる。最終的には、総合得点で順位を決めた。
 投票には、推薦人や小中学生を含め1,497人が参加した。いずれも実名またはペンネームでの投票である。投票結果の詳細な順位は発表されてないが、20位までに入ったものは「三河路に春を呼ぶ滝山寺の鬼祭り」「1300年村人を見続けた奥山田のシダレザクラ」「二七市、私のず~っと残しておきたい『日本の原風景』」「みんなでスウィング♪岡崎ジャズストリート」などである。折り畳み式の「岡崎百景」のパンフレットには、百景に入らなかった22点についても下部で紹介している。
 推薦人会議が重点を置いたのは一般への周知である。「岡崎百景フェイスブックページ」を開設するとともに、推薦人自らがアイデアを出してロゴマークを制作した。これには8つの案が出され、調整した。百景の候補が出そろった段階で「お披露目会」を催し、推薦人がそれぞれの候補への思いを直接訴えた。候補をパネルにした展示会と投票会場は巡回型にした。5月中旬から各地域交流センターや岡崎中央総合公園武道館を回り、7月末までの市美術館で締めくくった。10月の発表の際は、同時にシンポジウムを開き、「岡崎百景の活かし方」について意見交換した。
 市は推薦人向けの啓発活動にも力を入れた。正式な百景推薦人会議以外に、趣旨を徹底するために研修会を2回、交流会を1回開いた。交流会は市内を流れる乙川での葵桜の花見で、各自が食べ物などを持ち寄った。「岡崎百景通信」と名付けたニュースレターは5回発行した。推薦に当たっては、推薦文と写真を添える必要がある。このため、「岡崎百景通信」には、推薦文書き方の手引き、写真撮影のポイントといった記事も盛り込んだ。
 それでも、推薦人に決まった102人のうち、最後まで残って百景として実際に景観を推薦した人は83人にとどまった。ほぼ5人に1人が脱落した計算である。この点については課題を残した形である。

「岡崎百景」の一つに選ばれた「石づくりの六供配水塔」「岡崎百景」の一つに選ばれた「石づくりの六供配水塔」

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