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2016.12.26 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その18)

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選挙制度理学?

 選挙制度工学の前提は、特定の既存の選挙制度の結果によって、ある望ましくない帰結が生じている理学的分析が必要である。理学的なパターン・因果法則の解明があって、初めて工学的作為をなし得る。なぜならば、AならばB、という因果法則が解明されて初めて、Aという手段を、Bという結果を得るための工学的技法として、導出できるからである。選挙制度に関する法則的解明のないところに、選挙制度工学はあり得ない。
 とはいえ、『報告書』で示される指摘事項は、以下のように、印象論に近いものである。ということは、『報告書』は、選挙制度工学にのっとっている外観を持ちながら、実は選挙制度理学を想定しておらず、選挙制度工学も否定しているのかもしれない。とするならば、「失敗」した選挙制度工学への反省に立ち返って、人智の限界を踏まえた自生的制度論を想定しているのかもしれない。

中選挙区制度への暗黙の郷愁

 『報告書』によれば、
 ・人口規模の大きい団体においては、地域コミュニティが希薄となり、議員との個人的なつながりが持ちにくくなっている結果、大選挙区制では候補者を選択しにくいなどの状況が見られる
 ・定数の著しく多い大選挙区においては、候補者間の実質的な競争が確保されにくくなり、当選へのハードルが低くなり過ぎる場合がある
 ・現状の議員の構成に偏りがあることから、有権者と議員との距離感が広がっているのではないか
 ・都道府県議会議員選挙については、一人区が全選挙区の約4割を占めている。死票が多く、議員の多様性を確保しにくいため、有権者の関心や投票意欲が薄らいでいる面もあるのではないか
ということである(下線筆者)。
 第3点目は、果たして選挙制度と関係があるのかは不明であるが、『報告書』第Ⅳ章が問題としてきた議員と住民構成の反映性の問題である。ただ、現行制度で反映性が確保されないときに、制度的にあえて、反映性を確保する制度設計をすることは考えられる。
 例えば、議員の男女比が住民の男女比と著しく異なっているのが現状である。これを是正するのは簡単であって、男性選挙区と女性選挙区を分け、それぞれの定数を住民人口比(通常はほぼ1:1となるであろう)にすれば済むだけである。
 理屈上は、被選挙権者を規定するだけでよい。つまり、男性選挙区は、被選挙権者を男性に限定し、選挙権者は男女全員としてもよい。ただ、代表者と非代表者とで同じ属性を反映するという点を強調するならば、男性選挙区は選挙権者も被選挙権者も男性に限定する、ということになろう。もっとも、こうした性別選挙区制度は、LGBTをどうすべきなのか、という極めて深刻な問題を孕んでしまう。したがって、制度的に決め打ちすることは、かえって問題を増やすことになりかねない。
 第1点目と第2点目は、端的にいって、定数が大きすぎる大選挙区制度の問題を指摘している。他方、第4点目は、有り体にいって、定数1の小選挙区制度の問題を指摘している。つまり、『報告書』は、定数が数名程度の中選挙区制度を、実は暗黙のうちに推奨しているようにも読める。
 中選挙区制度は、日本の国政衆議院の普通選挙制度によって長く採用された制度であり、その論拠は明確ではないものの、自生的に生み出されてきたものである。都道府県議会は伝統的には郡市選挙区制度であり、必ずしも中選挙区制度とは限らない。とはいえ、ある程度の郡部に人口がいた時代には、必ずしも小選挙区制度中心を意味する制度ではなかった。また、市部も著しく人口が多かったわけではないので、あまりに大きな大選挙区ではなかったといえよう。そもそも、政令指定都市において、行政区が市議会選挙においても、道府県議会選挙においても選挙区となっているのは、市の人口が著しく大きくなる場合には、選挙区を分け、併せて、定数が大きすぎる大選挙区を避けようとしてきたといえよう。
 その意味で、定数が数名の中選挙区制度が、都道府県議会・政令指定都市議会では事実上標準であったともいえる。この観点からすれば、人口移動によって両極に分裂した現状に対して、『報告書』が中選挙区制度に郷愁を持つのは、自然かもしれない。

【つづく】


(1) 『報告書』そのものに忠実に表現すると、「V」とローマ数字が裸で記載されており「第Ⅴ章」という表記ではない。しかし、本稿では、単に「Ⅰ」「Ⅱ」……では分かりにくいので、章立てとみなして、「第Ⅰ章」「第Ⅱ章」……と表記する。その下位項目は「1」「2」……であるが、「第1節」「第2節」……と表記する。さらに、その下位項目は、(1)①となっている。

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