2016.12.26 議会改革
第7回 地方自治の二層制の変化と住民自治(下)――議会改革を多層な自治の住民統制に活かす――
4 もう一歩の先に:「公選職」から合併による新たな動向を考える
「公選職」は、地方議員の性格・位置付けを明確にしたいとして生まれた用語である(6)。市町村議会議員と都道府県議会議員を対象としている。地方議員の性格・位置付けは不明確であり、平成20年法律69号による自治法改正では誤解を避ける意味で、議員と非常勤の特別職の報酬とを区別するとともに、その名称が議員報酬に改定された(自治法203)。それでも、議員の性格・位置付けは地方自治法等に規定されずに曖昧のままである。
こうした公選職をめぐって本連載で強調したいことは、次の2点である。1つは、地方議会という公選職をめぐる変化である。地方分権改革により地方議会の権限及び活動量は飛躍的に高まっている。それを担う議員の役割も同様である。それにもかかわらず、反比例するかのように議員数は大幅に減少している。
そこで次の点を強調したい。公選職を地方議員(市町村、都道府県)に限定せず、より広い視野から議論すべきではないかということである。市町村合併に伴い面積も人口も大幅に巨大化しているものの、代表者(議員や首長)は、大幅に減少した。その穴を埋める狭域自治(自治体内分権)が構想され実践されている。そこで設置される住民組織が公選で選出されれば、公選職になる。しかし、その中には公募公選制(準公選制)を制度化したところもあるが(上越市)、いまだ十分ではない。むしろ、議会・議員がその住民組織と連携して狭域自治を強化する。狭域自治を担う公選職の役割は、住民組織と議会・議員に分有される。
強調したいもう1つは、自治体間連携・補完が進み当該市町村の事務が外に出されることにより自治の空洞化を招かないために、市町村議会がその統制を行う必要があるという点である。外部に移動した事務にも責任を持つことから、地方分権に伴って増大する活動量を考慮すれば市町村議会議員の役割は増大する。市町村議会議員は当該市町村だけではなく、自治体間連携にも常に責任を持つ。市町村議会議員という意味での公選職は、それを母体にしながらも広域にまで拡張する。なお、一部事務組合・広域連合には議会が存在している。直接選挙を実施する議会はいまだ存在しないが(現行制度では広域連合のみ可能)、それでも議会であれば公選職であることは当然である。その議員は独自の公選職である自覚を持つとともに(独自の議会改革の推進)、この自治体間連携と同様に、当該市町村を母体としていることから、市町村議会との連動が必要になる。
こうした2つの点で、公選職を市町村議会議員や都道府県議会議員に限定せず、広がりのある用語として理解したい。こうした新たな動向を踏まえつつ、市町村合併後の住民自治を考える必要がある。議員数の大幅減少を補完するための市町村議会議員と類似では強すぎ、「疑似」では弱すぎるニュアンスを持つ住民代表制を持った住民の特別な役割を、また自治体間連携を踏まえれば当該市町村議会議員の役割は広がるとともに、そもそも公選職の対象にはなっていない一部事務組合や広域連合の議員の役割を強調することになる。
~理解をさらに深めるために~
① 議会改革の第二ステージである議会からの政策サイクルの意義と作動を理解する。
② 平成の大合併に見られた、直接民主制の系譜(住民投票等)の意義と限界を探る。
③ 「大阪都」構想に見られたように、地方自治制度の変更を住民投票で行う意義を確認する。
(1) 都道府県の合併は、「法律でこれを定める」(自治法6)とされている。ただし、この適用に当たっては、特別法の住民投票によると「解される」(松本 2015:94)。この解釈どおりに進むことが必要であるが、「1の地方公共団体」ではないといった理由をつけた住民投票なき都道府県合併には十分に注意しておきたい。なお、「この条項が生きているかぎりは、国会はいつでもその一方的な意思に基づいて、都道府県がいかに強く反対しようとも、ある年月日を期して全国一斉に都道府県を廃止してこれに代えて道州を設置する法律を制定することができるのである。この一点において、依然として都道府県は市町村並みの完全自治体ではない」ことには注意を喚起しておきたい(西尾 2007:147)。
(2) その会長を担った西尾勝は、「大阪都」構想について、「国会を動かした政治手腕はお見事」としつつも、地元合意を最大限尊重するアメリカ合衆国でも、「レベルの異なる二層の自治体を統合する際の制度設計まで地元合意に委ねていない」ことなどを念頭に、「『制度設計の詳細は地元合意に委ねよ』は行き過ぎ」と論評している(西尾 2013b:190-194)。
(3) 特別法の住民投票の範囲について内務省は、GHQに対し解釈について回答を求め、「特別市制施行の場合一般投票を行う住民の範囲について当該市住民のみでなくその府県郡部の住民も加えて広く解釈する」ことを閣議で決定している(1947年7月26日)。第30次地制調諮問事項「『大都市制度のあり方』関連資料」参照。なお、当時の地方自治法は、小早川 1999などで参照できる。
(4) 第30次地制調会長である西尾勝は、「中心市は広域責任を自覚せよ」というタイトルで、周辺自治体への配慮を欠いた特別自治市構想への批判を行っている。都市は広域的責任を自覚すべきだとして、特別自治市構想は「都道府県による再分配機能を全面的に否定している提言」であり、「現行の地方交付税制度とはたして整合的なものであるのか、熟慮を求めたい」という視点からのものである(西尾 2013a)。
(5) 横浜市議会基本条例において、行政区ごとにそこから選出される議員によって構成される常任委員会(コミュニティ議会)を設置したことは、高く評価してよい。
(6) 地制調や地方議会の動向についてよほど踏み込んで追及していなければ、聞かれない用語である。都道府県議会議長会が提案し、それを受けて三議長会がともに、地方自治法改正に向けて要望しているものである。
〔参考文献〕
◇江藤俊昭(2013)「『行政区』改革と議会改革」市政研究181号(2013年10月号)
◇大杉覚(2011)「大都市制度をめぐる改革論議の課題と展望」地方自治761号(2011年4月号)
◇小早川光郎編集代表(1999)『史料 日本の地方自治〈第2巻〉(現代地方自治制度の確立)』学陽書房
◇西尾勝(2007)『地方分権改革』東京大学出版会
◇西尾勝(2013a)「中心市は広域責任を自覚せよ」地方議会人2013年9月号
◇西尾勝(2013b)『自治・分権再考――地方自治を志す人たちへ』ぎょうせい
◇山下茂(2010)『体系比較地方自治』ぎょうせい
◇松本英昭(2015)『新版 逐条地方自治法〈第8次改訂版〉』学陽書房