2016.12.12 政策研究
【フォーカス!】五輪見直し
国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。
五輪会場見直し分かれる評価 大山鳴動して…
2020年東京五輪・パラリンピックの会場計画の見直しを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、大会組織委員会、東京都、政府の4者によるトップ級会合が11月29日開かれた。その結果、ボート、カヌー・スプリントの会場は、計画通り「海の森水上競技場」(東京湾岸)のコストを削減して新設することで決着した。
一時は会場の候補として名が挙がり、小池百合子東京都知事が視察した「長沼ボート場」(宮城県登米市)は、東京から距離が離れていることや建設が間に合わないことから移転断念となった。「復興五輪」を掲げ、小池氏への期待が高まっていただけに、地元では「何だったのか」といった徒労感が広がる。
水泳の五輪水泳センター(江東区)は、規模を縮小して新設する。バレーボールの会場については、有明アリーナ(江東区)の規模縮小での新設か、横浜アリーナ(横浜市)での開催かの結論は、クリスマスまで先送りした。
この結果についての評価は難しい。小池氏側は「整備費の削減を勝ち取った」と強調するだろう。確かに「海の森」は仮設主体になることで整備費は491億円から298億円になる。水泳会場も観客席を減らすことで683億円から514億円の削減を見込み、この2会場で最大362億円の削減となる。
12月2日の記者会見では、雑誌記者がこの結果に「大山鳴動してネズミ1匹」と例えて質問した際に、小池氏は笑顔ながらも「ちょっとそれは失礼では」と遮る一幕もあった。小池氏は、この四者協議の成果についてテレビ出演してアピールしたことが、焦りの表れだったかもしれない。
ボートが長沼になっていれば、大改革として賞賛されたであろう。だが、見直し提案があまりにも遅すぎた上に、筋が悪かった。コスト削減の視点に加えて、競技団体などの意見も聞いた上での周到な準備がなければ会場変更できないことは、火を見るより明らかだったはずだ。
つまり、この程度の結果に終わる見直しであれば、「こんな劇場的な手法に訴えなくてもできたはずだ」と思ってしまう。小池氏の人気アップのために被災地まで巻き込んだとすれば、罪は重い。
思い出してほしい。2013年に五輪招致を活動している際には、当時の猪瀬直樹知事がスイス・ローザンヌで7月に開かれたIOC主催のテクニカルブリーフィングで、「東京は世界最大の経済規模を有する都市である。この強い財政力によって、45億ドルもの大会開催準備基金の積み立てを可能にした。この基金は銀行に預金されている。新設の恒久施設やインフラ整備に必要な資金は全額準備されている」などと大見得を切っていた。
「お金は大丈夫」というのが東京の売りだった。それが今になって、開催費用がかかりすぎると、東京都側が見直しを求めている。四者協議の場に引きずり出されたIOCも、長沼での事前合宿を提案したり、コスト削減を容認するなど、東京都のメンツを立てるために助け舟を出したりしたが、本当のところで、苦笑していたのではあるまいか。
招致の時から、五輪の開催さえ決まれば後の開催経費が膨れることは容易に予想できたはずだ。招致を有利にするために、意図的にずさんな計画を示していたと言えなくもない。猪瀬氏も含めた当時の招致関係者こそが、その責任を問われるべきであろう。しかし、小池氏は、猪瀬氏を自らの政治塾「希望の塾」の講師として呼んで、責任を追及する雰囲気はない。一方、築地市場の移転問題では、石原慎太郎元知事を厳しく批判している。二重基準ではないだろうか。
▼資料
・都知事会見(12月2日)
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/governor/governor/kishakaiken/2016/12/02.html