2016.12.12 議会改革
第29回 議会の説明責任とはどのようなものか
回答へのアプローチ
国会における代表制においても、政治的代表説はもはや通説とはいえないわけですが、それ以上に考えなければならないのが、自治体議会における代表制との違いです。憲法93条1項には「法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する」とあります。しかし、地方自治法94条には町村総会に関する規定があります。
◯地方自治法
第94条 町村は、条例で、第89条の規定にかかわらず、議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる。
いくら地方自治法で定めても、憲法93条1項に違反することはできませんので、この町村総会も憲法のいうところの「議会」のひとつと位置付けることができます。ですから、地方自治法を改正すれば、市であっても市民総会を「議会」と位置付けることができるのです。国会は当然、こうした仕組みを想定していませんから、自治体議会における議員と住民との距離は非常に近いといえます。直接請求があることも国とは異なる間接民主主義をとっている証拠といえるでしょう。
こうした議会と住民の近さは、議会の構成にも関係します。国会の場合、議員は国民各層の代表者であることはもちろんですが、専門的知識を有する者や、法律や行政に専門的な判断を下すことができる者も求められます。政党を前提にする選挙制度がつくられていますから、政党が「どんな議員が必要か」ということも考えつつ候補者を立てます。結果として「職業としての政治家」が多く存在することになります。
ただ、自治体の場合は違います。議会と住民との関係を考えると、何よりも、議員は住民の属性を反映したものでなければなりません。例えば、農業が盛んな地域なら農業をする議員が多くいなければ地域の声を届けられませんし、町工場が盛んな地域なら当然、その立場を代表する議員がいなければなりません。
ところがです。自治体議会を見ると、そうなっていないところもたくさんあります。都市近郊の自治体では、住民の一番多くを占めるのは給与所得者(サラリーマン)でしょう。しかし、現役サラリーマンの議員は1人もいませんし、その立場で発言する議員もほとんどいません。小規模自治体の場合には、職業の面では住民の属性と一致しますが、議員の年齢がみんなシルバー世代だったり、全員が男性だったりといったこともあります。ただ、こうした状況について、議員が悪いわけでもありませんし、住民が悪いともいえません。大きな原因は選挙制度にあります。第31次地方制度調査会「人口減少社会に的確に対応する地方行政体制及びガバナンスのあり方に関する答申」には、こんなくだりがあります。「現在、議会の議員の構成は、住民の構成と比較して女性や60歳未満の割合が極めて低い現状にある。(中略)その解消のためには、多様な人材が議員として議会に参画することをしやすくする取組が必要である」。具体的には、公務員が公職の候補者になった際に失職する公職選挙法90条の規定の改正やサラリーマンが公職に就く間に休職し、その後の復職を保障する制度の整備が求められるでしょう。また、一定の議席や候補者を女性に割り振るクオータ制の検討も行うべき時期に来ているのかもしれません。極端なことをいえば、法の期待とは異なり、住民の属性を反映しない職業政治家が議会を占めている自治体議会の姿があるといってもいいでしょう。ですから、議会は誰よりもそのことを自覚し住民を代表する存在であり続けなければなりません。個々の議員が住民の意見を聴き自らの考えを述べるだけでなく、議会として、できるだけたくさんの住民の意見に耳を傾け、行われた議論や判断に関して住民に説明する責任があるのです。
さらに議会の説明責任は合議体であるその性格からも求められます。市長は、市政の結果について選挙を通じて責任を負います。しかし、自治体議会では与党や野党がないのですから、議員が市政の結果について、選挙を通じて責任を負うことはありません。ですから、議会が住民に果たすべき一番重い責任こそ説明責任なのです。説明責任こそ、議会が住民の代表と認識されるための生命線なのです。それを単なるサービスなどと理解していると、住民との溝は埋まることはありません。Aを回答にしたいと思います。
ちなみに「説明責任」という言葉ですが、国立国会図書館のサイトの国会会議録検索で検索してみると、昭和の時代には全く使われていません。それもそのはず、説明責任という言葉が日本において一般的になったのは、平成11年に情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)が制定されて以降のことです。情報公開法1条には次のようにあります。ただ、議会の説明責任という場合には、先ほど述べた理由からもっと能動的な行為として捉える必要がありそうです。
◯行政機関の保有する情報の公開に関する法律
(目的)
第1条 この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。