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2016.12.12 政策研究

市民などの寄贈で充実した大牟田市石炭産業科学館

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元日本経済新聞論説委員 井上繁

 三池炭鉱のあった福岡県大牟田市や近隣地域では、江戸時代中期に当時の柳川藩や三池藩が石炭の採掘を始めた。その後、1873年に官営となり、1889年には民間への払い下げによって三井鉱山が経営を引き継いだ。1997年に閉山するまで三池炭鉱は日本の近代化や人々の暮らしを支えてきた。市内にある三池港、宮原坑など三池炭鉱関連資産は、2015年に「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の一つとして世界文化遺産に登録された。
 その20年前の1995年に大牟田市は、石炭や三池炭鉱の情報発信基地として石炭産業科学館を開業している。市が直営する施設である。世界遺産に登録された2015年度の入館者は前年度を84.9%上回る3万3,229人に達した。
 石炭産業科学館の運営は、大牟田市石炭産業科学館条例に基づいている。この条例は、開館前の1995年3月議会で成立し、開館と同時に施行されている。消費税の変更を含む観覧料の変更などで、条例は3回改定している。
 開館時の資料はわずか452点だった。その後、会社、労働組合、元炭鉱マン、市民などから、炭鉱の歴史を今日に伝える貴重な品々の寄贈が相次いだ。これまでの寄贈件数は1,160件に上る。同館は寄贈品を件数としてとらえ点数は計算してないが、1件で1万点を超える寄贈もあり、「おそらく2万点を超えているのではないか」(五本松恵美子館長)とみている。
 これまでに寄贈されたものを拾うと、大きなものでは、最高時速50キロメートルで当時、世界最速といわれた坑内に人を運ぶ人車「女神号慈海」がある。これは2001年に閉山した長崎県の池島炭鉱から大牟田市に寄贈された。この乗り物は、切羽(きりは)への移動時間の短縮のために開発された。編成は、機関車2両、人車4両で、人車1両の定員は24人だった。現在は館外に仮置きされており、見学できない。
 石炭産業科学館の屋外広場に展示してある電気機関車「バッテリーロコ」は、当時の三井鉱山三池鉱業所の協力会社から寄贈を受けた。20世紀の中頃、当時の日本輸送機が蓄電池からの電力を使用する機関車として製造し、坑内で使われた。現役時代に付いていた「幸せを呼ぶ鐘」も復元している。
 大牟田空襲は1944年から1945年にかけて5回あり、合わせて約1,300人が犠牲になった。これに関連して米軍が1945年に8,200メートル上空から撮影した米軍空撮写真の大パネルは2016年に「大牟田の空襲を記録する会」から石炭産業科学館に寄贈された。2012年に同会の発足40周年記念事業として制作された。高解像度の画像3枚を合成している。
 1963年の三川鉱炭じん爆発、1984年の有明鉱坑内火災など三池炭鉱では何度か大事故が発生している。それらを受けた保安対策としてガス検定器などが開発された。これも寄贈され、展示している。炭鉱作業員の1946年から約30年間の給与袋や明細書なども寄贈された。当時の労働者の待遇などを知る貴重な資料である。
 三池港は約1世紀前に築港された。その閘(こう)門は、干満の差が大きい有明海で、水位を一定に保ち、大型船が停泊できるようにつくられた。地元の国立有明工業高等専門学校の学生たちは、閘門の模型を制作して石炭産業科学館に寄贈した。100年前の技術を学ぶことができる。文化がらみでは、「石炭今昔三池かるた」の原画が大牟田美術協会と荒尾美術協会から2007年に大牟田市に寄贈された。大牟田や荒尾の石炭にちなんだ景気の様子や情景が描かれている。大牟田市民から寄贈された大牟田の化石のコレクションも収蔵品に入っている。
 大牟田市の人口は11万7,413人(2015年国勢調査速報)で、10年間で10.4%減少している。2014年度決算では、財政力指数は0.48で、地方交付税が歳入の42.4%を占めるなど財政状況は厳しく、展示品を購入する余裕はない。入館者が伸びているのは、世界遺産としての登録が追い風になっているだけでなく、市民など関係者の協力で、次々に新しい寄贈品が加わり、それが新鮮な展示や企画につながっているからだろう。

誰でも「幸せを呼ぶ鐘」を鳴らすことができる坑内用電気機関車「バッテリーロコ」 誰でも「幸せを呼ぶ鐘」を鳴らすことができる坑内用電気機関車「バッテリーロコ」

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