2016.11.25 政策研究
第6回 地方自治の二層制の変化と住民自治(上) ――議会改革を多層な自治の住民統制に活かす――
(2)自治体間連携・補完における住民自治
自治体間連携・補完の広がりに関しても、「議会からの政策サイクル」を活用する必要がある(江藤 2015a、b)。自治体間連携・補完の作動を積極的に監視し政策提言することである(表2参照)。なお、特別地方公共団体である一部事務組合や広域連合の役割が高まれば、当然そこに設置されている議会の役割は高まる。間接選挙(直接選挙は制度上広域連合のみ可能であるが、今日実践されていない)であれば、そこに議員を選出する市町村議会の責任が問われる。
① 議会報告会等における自治体間連携の状況報告。介護保険など住民に密接に関連する事務を自治体間連携で行うことも多い。自治体間連携の初動の際にも、またその後も常時住民に説明し住民とも討議する。
② 参考人・公聴会制度の活用。委託や共同設置の場合は、関連する首長等を、一部事務組合・広域連合は執行機関を参考人として市町村議会(委員会)に呼ぶことはできる。また、特例一部事務組合では、市町村議会が一部事務組合の議会を兼ねるがゆえに「首長等の出席義務」(自治法121)を活用できる。
③ 一部事務組合や広域連合の議会審議の充実。一部事務組合や広域連合の議会の審議を充実させるために、その議案を市町村議会で事前に審議し、それを踏まえて一部事務組合の議会の議論を充実させることである(都道府県レベルではあるが「京都府方式」)。
④ 一部事務組合や広域連合の議会改革。住民と歩み、議員間討議を重視し、それらを踏まえて首長等と政策競争する議会改革が広がっているが、一部事務組合や広域連合の議会では、それらがほとんど活用されていない。四日市港管理組合(一部事務組合)議会では、議会報告会を行うとともに、執行機関と政策競争をする意味で議決事件を追加している。住民に身近な議会をつくり出す必要がある。
⑤ 都道府県による市町村の補完への住民統制・参加。上記のような実践を都道府県に対しても行える(説明責任、参考人招致など)。同時に、住民は議会議員や知事の直接選挙や直接請求を積極的に活用する。都道府県(議会と/あるいは執行機関)からは、個別テーマで住民・NPO・企業との意見交換会、市町村議会議長や首長で構成される審議会などを設置し、市町村の声を踏まえての補完を行う。
自治体間連携・補完への住民統制・参加は弱い。それを充実・強化させることが本稿の目的の1つであった。市町村議会の改革が自治体間連携・補完への住民統制・参加の充実・強化にとっても有用であることを強調してきた。二元的代表制の覚醒は、自治体間連携・補完への住民統制・参加に連動している。そもそも、住民にとって身近な二元的代表制さえも作動していなければ、当然ながら住民は自治体間連携・補完には関心を持たないであろう。ようやく二元的代表制は覚醒してきた。自治体間連携・補完を含めて住民に対する公共サービスが拡散していけば、住民に対する視野も広がらなければならない。それが自治体間連携・補完への、住民統制・参加の前提となる。この広がりは、住民間ネットワークの構築を必要とする。公共サービスの広がりは住民のネットワーク(そして議会・議員ネットワーク)を要請する。このネットワークに基づいて広がりのある公共サービスが提供される。まさに、公共サービス提供の単位をどこにするかといった行政の論理に基づく議論ではない。それをどのように統制・管理し政策提言・監視を行うかといった政治の論理に基づく議論が必要となっている。
表2 自治体間連携・補完への市町村議会及び住民による統制・参加(4つの要素と手法)
(1) 住民代表である議員や首長の削減が民主主義の危機としてではなく、行政改革の系譜で作動し肯定的に評価されていた。その問題への対応として、議員の任期・定数特例、選挙区選挙の設置、及び地域協議会の設置などが制度化された。地域審議会、地域自治区等、継続しているものもあるとはいえ、その多くは消滅している。
(2) 平成の大合併をめぐって制度化された自治体内分権は、大きくは2つの系譜に分かれる。1つは、合併特例法や地方自治法の規定を用いたものであり、地域自治区の設定となる。上越市や飯田市はこの系譜である。もう1つは、それらの法律を用いずに独自に条例で定めるものである。伊賀市(及び合併はしていないが、合併の議論の中で生まれた制度という意味で名張市)が挙げられる。これらは、住民自治を推進する自治体内分権の最前線といってよい。
〔参考文献〕
◇石平春彦(2015)「コミュニティ政策と都市内分権に関する上越市議会の取組」コミュニティ政策学会編『コミュニティ政策13』東信堂
◇江藤俊昭(2013)「『行政区』改革と議会改革」市政研究181号(2013年10月号)
◇江藤俊昭(2015a)「自治体間連携における議会の役割」同編『Q&A 地方議会改革の最前線』学陽書房
◇江藤俊昭(2015b)「基礎自治体の変容――住民自治の拡充の視点から自治体間連携・補完を考える」日本地方自治学会編『基礎自治体と地方自治』敬文堂
◇江藤俊昭(2015c)「地域自治組織と議会の新たな関係」コミュニティ政策学会編『コミュニティ政策13』東信堂
◇西尾勝(2007)『地方分権改革』東京大学出版会
◇西尾勝(2013)『自治・分権再考――地方自治を志す人たちへ』ぎょうせい
◇室崎益輝・幸田雅治編著(2013)『市町村合併による防災力空洞化――東日本大震災で露呈した弊害』ミネルヴァ書房