2016.11.25 政策研究
第6回 地方自治の二層制の変化と住民自治(上) ――議会改革を多層な自治の住民統制に活かす――
2 ポスト市町村合併時代の住民自治
(1)自治体内分権の充実と議会
合併による議員数の大幅削減に伴う弊害を打開するための手法の1つとして地域自治区等があり、これにより自治体内分権も生まれている。しかし、その中心的な役割を担う地域協議会は、あくまで首長の諮問機関であり、結果的に行政を強化するものである。議会が政策過程から疎外されている状況を住民自治という視点から考えたい。行政の論理で設計された地域自治区であっても、その行政改革の視点から廃止に向かったものも少なくない。合併7年半後(2013年)に地域自治区を設置した新城市の動向は、住民自治にとって稀有な試みである。
自治体内分権は、何も平成の大合併の「あだ花」ではない。日本においても合併による大都市化の弊害を打開することを目指して、その制度化が試みられていた(都市内分権(江藤 2013))。いわば住民自治の推進の系譜でもあった。平成の大合併は確かに行政の論理で推進された。とはいえ、そこで生じる弊害の緩和のために構想され実施された地域自治区等の試みは、住民自治の推進という契機と接合する可能性を秘めている(江藤 2015c)。
例えば、飯田市議会は自治体内分権をつくり出し、その住民組織との協働を推進することで議会の監視・政策提言能力をアップさせている。議会は毎年、自治体内分権の住民組織の1つであるまちづくり委員会と共催で議会報告会を開催している。その際、提起された住民の意見を2つのルートから活用している。1つは、それを住民からの政策提言と受け止め、議会の常任委員会の所管事務調査のテーマとして政策提言に活かすものである。もう1つは、そこで出された意見を参考に、議会による行政評価の項目選定に活かすものである。行政評価は、決算認定を充実させ、それを踏まえて予算要望につなげる意味がある。基本構想を議会の議決としたことへの責任から行っている。
どちらのルートにせよ、狭域自治を推進する住民組織と協働することで、議会は全住民に責任を持つ。全市の住民福祉が最初からあるわけではなく、それは狭域自治を含めた個別利害の昇華によって表出される。「市議会では市民目線を大事にしている。〔出身議員がいないか少ない〕中山間地の問題に関心がない議員は辞めたほうがいい」と木下克志飯田市議会議長が喝破しているのはこの文脈である(「中山間地の声 どう届ける」朝日新聞(地方版)2015年9月11日)。
議会改革を進める上越市議会でも、自治体内分権を積極的に進めている。議会報告会(意見交換会を含めて)を2年に1度の割合で全地区で(28地域自治区をいくつかに統合した場合を含めて)開催している。その際に出された住民の意向を、所管事務調査や個々の議員一般質問等に活用している。
地域協議会と行政との間に対立が生じ重要な争点が浮上した場合、地域協議会を意識した議会の対応は次のようなプロセスを経る(石平 2015:101)。(ⅰ)執行機関より議会に方針案等が提案・説明される、(ⅱ)その後同様の資料等を活用しながら地域協議会に説明し理解を求める、(ⅲ)争点化すると、一方で地域協議会の自主的審議、他方で議会(委員会)の所管事務調査が行われる(同時進行)、(ⅳ)その後、地域協議会や地域住民への説明会における意見等は適時所管事務調査の中で報告されるとともに、行政から改善や修正が示され、それをめぐって双方で質疑・議論する。こうした一連の過程に議会としてかかわっていく。
同時に、議員としての活動もある。争点が終結するまでは、一般質問や行政への要望等により、「自らの経験と情報収集により間接的に想いを同じくして取り組む場合がある」。
こうした議会からの政策サイクルの起点に自治体内分権の住民組織を組み込み、それを住民福祉の向上につなげる実践は、いまだ一般的ではない。少なくとも以下3つの条件が不可欠である。これがなければ住民自治の空洞化は進む。
① 自治体内分権の充実(2)。自治体内分権における住民組織にある程度権限が付与されている。法律に基づく制度であればその権限(答申・意見提出等)は当然あるが、それ以外の権限も付与されている。従来の補助金の再編を超えた一括交付金が交付され、その交付先を住民組織が決める。住民が独自に交付先を決める自治は、同時にその額が大きくなればなるほどその正統性(住民が選出していない組織が決めることへの疑問)が問われるという意味で両刃(もろは)の剣となる。なお伊賀市の場合、住民組織に「同意権」も付与されている。
② 自治体内分権の条例化(自治基本条例で明記)。自治体の憲法といわれる自治基本条例に自治体内分権が明記されている。その制定過程には、議会が大いにかかわっている。飯田市の場合、自治基本条例は議員提案で策定された。住民自治の基本に自治体内分権が位置付けられ、その充実が常に議論されている。
③ 議会改革の進展。住民と歩む議会は、様々な多くの住民との意見交換を重視する。その中でも自治体内分権における住民組織は極めて重要な要素となる。「議会からの政策サイクル」の起点がまさにその住民組織である。そこで提出された住民からの意見が、一方で議会独自の調査として、また個々の議員の一般質問として活かされ政策提言となる。他方で議会として取り組む行政評価項目の選定基準となり、そこで選択された項目に基づき行政評価が行われ、それが決算認定に活かされ、予算要望に接続する。