2016.11.25 政策研究
第6回 地方自治の二層制の変化と住民自治(上) ――議会改革を多層な自治の住民統制に活かす――
(2) 平成の大合併の歴史的な位置
平成の大合併に当たって、メリット(行財政改革、集中的投資、サービスの安定、知名度のアップ等)とデメリット(身近なサービス提供が困難、コミュニティの衰退、地域間格差、地域の声が届きにくい等)が旺盛に議論された。自主的な合併ではあるが、様々な誘導策が配置されていた。
合併は、関係市町村議会の議決を経て、市町村が都道府県知事に申請して、都道府県議会の議決を経て知事が合併を決定し、総務大臣に届け出て大臣が告示することで成立する。自主的な合併である。とはいえ、「強制合併」の様相を示していたのは、都道府県知事による合併に関する計画定立と関係市町村への勧告だけではなく、様々な誘導策が実施されてきたからである。
合併を誘導する法律(新旧市町村合併特例法)には、①財政上の優遇措置(特例債、交付税の優遇措置)、②地域審議会、地域自治区・住民協議会といった自治体内分権の制度化、③議員特例(任期あるいは定数)、④合併協議会設置の住民発議及び住民投票(拘束型)、などの定めがあったのである。
これらにより合併のうねりが生まれた。総務省は都道府県と一体となって合併のパターンをつくり、合併を既存の路線とするイメージをつくり上げた。1999年、総務省は都道府県に対して、区域内の市町村の合併パターンを含んだ要綱作成を求める指針を出している。また、各地で合併促進のリレー・シンポジウムを実施し、大々的なキャンペーンを行った。
他方で、市町村合併特例法には、上述の合併の障害を取り払う様々な措置が導入されていた。また、小規模町村に対する地方交付税の基準財政需要額算定における段階補正措置のカットが行われた。財政危機に苦しむ多くの市町村は、合併による優遇措置に飛びつく傾向があった。
これらが、自主的な合併でありながら「強制合併」と映る理由である。同時に、合併に当たっては、住民自治の新たな仕組みと実践も行われた。住民アンケートは当然であり、住民投票(条例あるいは地方自治法に基づく)、リコール請求も例外的なものではなく、広がりを見せた。住民投票においては、16歳から、あるいは定住外国人も含めたものまで多様な実践が行われた。住民自治の新たな展開も見られた。
今日、平成の大合併は、「一区切り」となっている(第29次地方制度調査会答申、2009年)。合併が可能とされた市町村の多くでは、すでに行われているためである。
(3)合併後の住民自治の課題
平成の大合併のその後を住民自治の視点から考えると、2つの点で大きな問題が指摘される(室崎・幸田 2013)。問題の1つは、議員数の大幅削減によって住民の声が通りにくくなっていることである。平成の大合併前には6万人を超えていた議員数は、今日3.5万人程度になっている。合併が原因ではない場合もあるにせよ(合併しない決断をした自治体でも財政危機を念頭に議員定数削減を行った例は多い)、合併によって議員数の大幅削減が進んだ。とりわけ「周辺部」では、地元出身議員ゼロ状況を生み出している(1)。地域住民を自治体に登場させる仕組みとして、地域協議会なども設置された。とはいえ、これらはあくまで行政側の対応である。
もう1つの問題は、自治体間連携・補完が強調されていることである。自治体間連携には、すでに多様な制度があった(委託、共同設置、協議会、一部事務組合、広域連合)。それに加えて連携協約(定住自立圏、連携中枢都市圏)、事務の代替執行も制度化された。自治体間連携に当たって、起動時には議会の議決が不可欠ではあるが、その後議会統制が外れて行政主導による運営が行われることになる。もちろん、委託、共同設置、協議会でも毎年の予算・決算による統制が行われているし、一部事務組合や広域連合では議会が設置され、その議会には構成市町村の議員が間接的に選出されて統制が行われている。しかし、前者もルーティン化しているとともに、後者は年間に数日の開催では、その統制力は弱い。まさに市町村事務の外注化(団体自治の空洞化)だけではなく、住民統制の弱体化(住民自治の空洞化)という意味で自治の空洞化が進行している。また、自治体間連携・補完では都道府県による市町村の補完は重要となる。住民から遠い都道府県が公共サービスを担う場合の住民統制のあり方を考える必要がある。
本稿では、合併による2つの方向で進行する住民自治の問題を、今日進展している議会改革、とりわけ「議会からの政策サイクル」によって解決できるとはいえないまでも是正することを強調したい。