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2016.11.25 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その17)

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首長系地域政党の政府間政党化

 大阪府議会における橋下徹・大阪府知事の結成した「大阪維新の会」が、首長系地域政党の典型だとすると、その後の「維新の会」勢力の動きは、いわば地域政党の政府間政党化と呼べるものであった。
 橋下・府知事の人気にあやかって、大阪府内の市町村では、首長・議員の中に「維新の会」勢力を称するものが現れた。これは、選挙での当選見込みを増すというポストを巡る欲得である。さらに、「維新の会」勢力の市町村長又は議員ということで、大阪府からのなにがしかのカネが期待されるともいえよう。いわば、国からのカネとポストを欲しがって、自治体でも与党系全国政党ができるように、大阪府からのカネとポストにあやかろうとして、大阪府内市町村でも(橋下)知事系地域政党が形成されたといえよう。いわば、上位政府のカネとポストにあやかろうという意味では、全国政党と相似形の形成論理である。
 その後、橋下徹・府知事が大阪市長に転出したため、大阪市会における首長系地域政党ともなった。ただし、単純に大阪市という単一政府内の首長系地域政党ということではない。むしろ、大阪府と大阪市との対立を、自身が大阪市長になって支配することによって解消しようとする橋下徹・府知事の作戦であったので、いわば、大阪府と大阪市を一体的に橋下徹という首長「兼職」の下に置こうとしたわけである。そのときに、制度上は兼職ができないので「大阪維新の会」からは、松井一郎・「大阪維新の会」幹事長を大阪府知事に送り込んだのである。
 こうして、首長系地域政党とはいっても、傘下の首長が多数出現したため、どの首長の系列かは、外見的には分からなくなった。その意味で、典型的な首長系地域政党からは変質したといえよう。もっとも、実態的には、橋下徹・大阪市長がオーナー的存在であることは自明であるので、首長=橋下徹系政党ということである。論理的には、首長としてそれぞれの選挙基盤を持つ首長たちが争えば、首長系地域政党は分裂しよう。実際、当初は「大阪維新の会」系として当選した竹山修身・堺市長は、その後、橋下系地域政党からは距離を置いている。この現象が、松井一郎・大阪府知事に起きることもあり得る。しかし、現実には、松井知事は橋下系地域政党の幹部の立場にとどまっている。
 その後、「維新の会」勢力は、国政選挙にも進出し、一定の勢力を保っている。その意味で全国政党でもある。全国政党が自治体レベルに存在するのか、地域政党が国政レベルに存在するのかは、外形では判別がつかない。しかし、沿革的には、地域政党から国政に進出したと記述することはできる。とはいえ、上述のとおり、与党系全国政党が自治体レベルで存在することには意味があるが、野党系全国政党は自治体レベルで存在する意義はほとんどない。したがって、首長系地域政党が国政に存在し、首長=橋下徹・大阪市長の支援によって、国会議員(候補)は当選確率が高くなるというポストを得ている、と見るのが妥当であろう。
 逆にいえば、このことは、「維新の会」勢力が、国政政権・与党に擦り寄りたくなる内在的論理を持つことを示している。首長系地域政党は、基本的には首長からカネとポストを得ようとする存在である。それが国政に進出するとしても、国政では野党であれば、国からカネとポストは得られない。あくまで、ポストを首長に依存しているわけである。しかし、首長1人で多くの議員ポストを確保するという「神通力」には限度がある。そうであるがゆえに、国政与党の「うまみ」を得ようとする。かつての公明党が、自治体レベルから「保守中道路線」として首長与党化していったが、それには飽き足らずに、国政レベルでも自公政権の「うまみ」を求めていったのと同様の論理である。つまり、「維新の会」勢力は、欲得の論理に従って、巨大になった図体を維持するカネとポストを得るために、国政与党に食い込もうと努力することになろう。つまり、国政政権党の補完勢力としての与党系全国政党になっていく。

マシーン政党化

 橋下徹・大阪市長は、2015年12月に首長職を退任したため、「大阪維新の会」は、橋下徹・首長を擁する首長系地域政党であるとは、外形的には呼べなくなっている。もちろん、「大阪維新の会」代表となった松井一郎・大阪府知事という首長を中心と見れば、依然として首長系地域政党であるともいえる。とはいえ、橋下・元大阪市長抜きで松井・大阪府知事がオーナーになったともいえず、また、オーナーの地位を禅譲されたともいえず、特定の首長を前提とする首長系地域政党の色彩を弱め、政党という組織が自立したともいえる。
 しかし、現実には政界復帰の可能性がゼロではない橋下・元大阪市長を、暗黙のオーナーとする「影の」首長系地域政党ということもできよう。アメリカのマシーン政党も、ボスは必ずしも市長や市議のような公職者であったわけではないので、「大阪維新の会」はマシーン政党であると見ることもできる。

【つづく】


(1) 『報告書』そのものに忠実に表現すると、「V」とローマ数字が裸で記載されており「第Ⅴ章」という表記ではない。しかし、本稿では、単に「Ⅰ」「Ⅱ」……では分かりにくいので、章立てとみなして、「第Ⅰ章」「第Ⅱ章」……と表記する。その下位項目は「1」「2」……であるが、「第1節」「第2節」……と表記する。さらに、その下位項目は、(1)①となっている。

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