2016.10.25 議会改革
『地方議会に関する研究会報告書』について(その16)
全国政党化が進む論理/進まない論理
論理的には、市区町村議会議員と都道府県議会議員の関係も同様である。市区町村議会議員は自らの後援会を組織し、議会内では会派を結成するとして、都道府県へのカネとポストの働きかけは、しばしば政党所属している都道府県議会議員の個人後援会に参画すればすむのである。このようなミクロな組織の積上げでよいのであれば、市区町村議会議員は全国政党に参画する必要はない。こうして、保守系=自民党系の市区町村議会議員の多くは、「無所属」のままでいる。
逆に、ミクロな組織の積上げではうまく有権者を組織化することのできない場合には、市区町村議会レベルであっても、全国政党に依存することになろう。公明党と共産党という「組織政党」はその典型である。自民党は組織がない議員政党ではなく、個人後援会という草の根まで形成された組織のミクロの集積というだけである。そして、政令指定都市や東京特別区のように、有権者の数が膨大かつ流動的なところでは、こうしたミクロ組織の積上げが困難なため、自民党という政党ラインが使われるのである。
なお、これに対して、かつての社会党や民主党・民進党のように、基本的には国政野党の場合には、都道府県・市区町村レベルの議員にとって、カネとポストの導管としてはほとんど役に立たない。ポストとしては、国会議員の支援があれば都道府県議会議員では当選しやすくなり、逆も真であろうから、ポストの〈持ちつ持たれつ〉はあり得る。しかし、カネに関しては、国政を牛耳っているのは与党国会議員であり、野党議員に陳情してもカネは出てこない。野党系の都道府県議会議員であっても、国にカネを求めて陳情するには、与党国会議員に働きかけなければならない。つまり、国政野党はカネの導管としては機能しないのである。これでは、都道府県議会で国政野党として全国政党化が進むはずはないのである。国政の一党優位制の持つ片面的影響は地方に大きく及ぶ。
議会政治に野党機能が重要なのは、規範的にはそのとおりであり、国政レベルでは一定の野党の存在が求められている。しかし、このような国政野党の国会議員は、地方議員にとってカネとポストの導管としては――与党が取り上げない問題を取り上げるというマイナーな落ち穂拾い機能を除き――ほとんど役に立たない。だから、都道府県議会レベルで、国政野党を名乗る議員はほとんど出現しないのである。
逆にいえば、全国組織政党である公明党は、国政与党として居続けることが、地方レベルの公明党所属議員にとっても重要になる。陳情の導管になるからである。もっとも、この論理からすれば、同じく全国組織政党の共産党が、なぜ「確かな野党」と称する「万年野党」で居続けるのかという疑問もあり得よう。本当は、共産党も国政与党で居座りたいのかもしれない。ただ、政権参画の能力がないので、希望が果たせていないというだけであろう。公明党も、「政教一体」などのレッテルを貼られていたら政権参画はできないが、通常は、「普通の中道政党」と考えられ、かつ、それゆえに、「ねじれ国会」や小選挙区制では「万年与党指向」の自民党にとって魅力的な存在であり、選挙での組織票が期待され、政権参画が可能であったというだけである。公明党は、国政与党でいられるチャンスがあり、共産党にはそれがなかっただけである。
保守系無所属会派という事実上の「地域政党」
ただ、こうなると、都道府県議会議員の圧倒的多数派は国政与党系であり、端的には、自民党議員ということになる。政党・会派の機能はカネとポストの配分であるが、あまりに巨大すぎる政党の看板は、それ自体ではカネとポストの配分基準に役立たない。そこで、市区町村議会議員では、政党は保守系無所属として、その上で、会派が分立する状態を形成する。都道府県議会は中途半端であり、国政との関係では国政政党=自民党を名乗ることで、国とのカネとポストの導管を形成するが、都道府県議会内では圧倒的に自民党議員が多すぎるので、そのままではカネとポストの配分には役立たないので、党内派閥的な存在が必要になるのである。
また、自民党が、あまりに強大になれば、強大な与党に参画すること自体のメリットは減る可能性はある。つまり、自民党の国会議員・都道府県議会議員であっても、党内でうだつが上がらないのである。このときには、自民党内で派閥を形成する代わりに、自民党の外部で、自民党補完勢力としての政党を独自に結成することもありうる。いわば、「第二・第三自民党」として、別の全国政党又は地域政党を結成するのである。これは、実態としては、自民党内派閥と同じである。このような政治家は、自民党に戻って権力に与かれるのであれば自民党に戻り、自民党から外に出た方が権力に与(くみ)することができるならば、別の政党を結成するだけである。
こうして見ると、市区町村議会レベルでの保守系無所属の複数会派は、実は、自民党系列ではあるが、当該市区町村のみで有効なカネとポストの配分基準となる事実上の「地域政党」なのである。通常、こうした保守系会派は、地域政党と自称することはない。しかし、全国政党の看板をそのままには活用せずに、カネとポストの導管の機能を果たす以上、立派な政党なのであり、かつ、その範囲は当該自治体に限られている意味で、事実上の「地域政党」となってきたのである。次回は地域政党を取り上げよう。
【つづく】
(1) 『報告書』そのものに忠実に表現すると、「Ⅴ」とローマ数字が裸で記載されており、「第Ⅴ章」という表記ではない。しかし、本稿では、単に「Ⅰ」「Ⅱ」……では分かりにくいので、章立てとみなして、「第Ⅰ章」「第Ⅱ章」……と表記する。その下位項目は「1」「2」……であるが、「第1節」「第2節」と表記する。さらに、その下位項目は、(1)①となっている。