2016.09.26 政策研究
第3回 政策立案におけるRESASの活かし方(下)
●労働生産性をどう高めるか
このように見てくると、原村の産業は、農業、宿泊業、いくつかの製造業の特化係数が高く、また移入もあり、それらが地域の基盤産業となっている。しかしながら、その労働生産性は低く、その意味で必ずしも稼げる産業とはいえない。では、労働生産性を高めるためにはどうすればよいか。RESASのデータだけで検討できるものではないが、いくつかの視点について言及しておきたい。
1つ目は、人口密度や産業集積を高めるということである。たとえば、内閣府の「地域の経済2012」では、「人口密度の上昇により労働生産性が上昇することが示唆」されることや「事業所の集積度の上昇は労働生産性を高める傾向にあること」が指摘されている(10)。同様に、経済産業研究所のレポートによれば、「全てのサービス業種で顕著な(需要)密度の経済性が観察され、市区町村の人口密度が2倍だと生産性は10%~20%高い」ことも指摘されている(11)。もちろん一言に集積といってもその形は1つではなく(12)、地域の歴史や産業的な強みを踏まえたものにしていく必要があるが、いずれにしても、人口密度や産業集積という観点は、今後の地域政策・産業政策において重要な示唆を与えている。
2つ目は、専門性のある職種の育成である。「製造業のうち専門的・技術的職業従事者(13)の割合」と「労働生産性」の関係を分析したレポートによれば、それらの間には相関関係があり、「製造業のうち専門的・技術的職業従事者の割合が大きいほど、就業者数当りの県内総生産が大きい」という(14)。専門的・技術的職業には、必ずしも今すぐに価値を生み出すわけではない職種も含まれているが、だからこそ、未来の付加価値を創造していくための投資でもある。産業の育成であるとか、仕事の創出という観点では、しばしば仕事の「量」に焦点が当てられることが多いが、仕事の「性質」も考えていくことが、長期的に地域全体の付加価値・労働生産性を高めていくためには必要であるように思われる。
4 おわりに
以上、地域の人口・産業分析について、主にRESASを活用しながら、必要に応じて、他のデータや理論(情報)も活用しながら整理してきた。あらためて述べる必要もないことであるが、これらは人口や産業を見る際の一例にすぎず、実際に政策を検討していく際の分析としては不十分である。それぞれの議会・行政で政策を考える際には、より多面的かつ詳細な分析を行い、各地域の実態に即した政策を検討いただきたい。前述のように、ある1つの事象は、様々な要因・環境の影響を複合的に受ける中で発生している。だからこそ、その事象を解決・改善する手段の選択(=政策決定)にあたっては、目の前にぱっと出てきたものに安易に飛びつくのではなく、鳥瞰的な視点から、また、事象(データ)と事象(データ)の関係性・因果関係を認識しながら検討されなければならない。そのことは、行政機関だけではなく、住民の多様な意思を代表している議会にこそ必要である。
次回の第3回は、少し視点を広げて、地域全体として質の高い政策を策定していくためにはどうすればよいか、特に住民との関係という視点から考えたい。キーワードを先に挙げれば、「Open Government」、「Open Policy Making」などになるが、それらにおける議会の役割というものを考えるのが次回の主題である。
(8) http://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/data/io/t_gaiyou.htm
(9) これらの関係をデータに基づいて分析を行った中村良平氏によれば、地域の人口は「域外市場産業(基盤産業)」の従業者数のおよそ13倍となることが指摘されている(中村良平「地域産業構造の⾒⽅、捉え⽅」http://www.stat.go.jp/info/kouhou/chiiki/pdf/siryou.pdf)。
(10) 内閣府「地域の経済2012」(http://www5.cao.go.jp/j-j/cr/cr12/chr120302.html)。
(11) 森川正之「サービス業の生産性と密度の経済性―事業所データによる対個人サービス業の分析―」経済産業研究所(http://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/08040005.html)。
(12) 内閣府「地域の経済2016」28頁(http://www5.cao.go.jp/j-j/cr/cr16/chr16_index-pdf.html)。
(13) 総務省によれば、「専門的・技術的職業」とは「高度の専門的水準において、科学的知識を応用した技術的な仕事に従事するもの及び医療・教育・法律・宗教・芸術・その他の専門的性質の仕事に従事するもの」を意味し、たとえば、研究者、技術者、システムコンサルタント、芸術家、デザイナー等が該当する。
(14) 大和総研「日本の各都道府県における地域の資金循環及び流出入についての調査研究報告書」(平成27年3月)20頁。