2016.09.26 政策研究
第3回 政策立案におけるRESASの活かし方(下)
●特化係数
以上では、移輸出入収支額から地域の基盤産業を確認したが、地域の基盤産業は「特化係数」という別の指標でも確認することができる。特化係数は、地域のある産業の従業者数(や付加価値額等)が地域全体の従業者数(や付加価値額等)に占めるシェアを、全国の当該産業のシェアと比較したものであり、その地域が全国の平均的な産業構造と比べてどの程度異なっているか(特化しているか)ということを表す指標である。特化係数は、RESASもデータを提供しており、従業者数、付加価値額、労働生産性の特化係数を確認することができるが、ここでは、総務省が提供する「地域の産業・雇用創造チャート」(図8)から特化係数を確認したい。このチャートは、横軸に特化係数を、縦軸に当該地域における従業者割合を表している。つまり、図の右上ほど、従業者の割合も高く、また、全国と比較して特化している基盤産業であることを意味している。
図8 地域の産業・雇用創造チャート(長野県原村)
さて、原村はどのような状況だろうか。まず特化係数が最も高い産業は「宿泊業」である。宿泊業は、従業者比率も高く、原村の基盤産業になっている。続いて、特化係数が高い産業が「農業」である。農業は、前述の移輸出入収支額が最も大きい産業であったが、外から稼ぐことができている域外市場産業であることは特化係数からも裏付けられる結果となっている。ここで、農業に関係がある「食料品製造業」を見ると、特化係数は非常に小さい。このことから、原村で生産された農産物はほとんどがそのまま域外に移出されており、加工品などの製造は全国的な傾向ほどは行われていないということを指摘することができる。また、原村の特徴として、一方で、同じ製造業でも「プラスチック製品製造業」、「鉄鋼業」、「業務用機械器具製造業」の特化係数が高いのが特徴的である。
●労働生産性
では、特化係数が高いそれらの産業は、どの程度の価値を生み出しているのだろうか。ここでは、従業者1人当たりの付加価値額を意味する「労働生産性」を確認したい。
図9 産業別の労働生産性(長野県原村)
図9は、原村の労働生産性を全国平均と比較したものである。まず、原村の中で労働生産性が高い産業は、製造業、サービス業(他に分類されないもの)、医療・福祉、建設業などで、これらの労働生産性は3,000千円を超えている。一方、全国的な傾向と同様であるが、宿泊業・飲食サービスや生活関連サービス業・娯楽業の労働生産性は低く、原村では1,000千円強にとどまっている。
折れ線グラフは、全国平均との比率を表しており、パーセンテージの値が大きいほど全国平均より高い労働生産性であることを意味する。全体的な傾向としては、「農業・林業」、「サービス業(他に分類されないもの)」を除いて、原村の労働生産性は全国平均より低く、全国平均の50%以下となっている産業も少なくない。
深掘りするため、より詳細な産業分類で労働生産性を確認したい。図10は、特化係数が高かった産業を対象に、労働生産性を県平均・全国平均と比較したものである(なお、このグラフは、RESASメニューから「自治体比較マップ>労働生産性(企業単位)」をたどっていくことで確認できる)。
図10 労働生産性の県平均・全国平均との比較
一番左は「農業」である。農業は、特化係数も移輸出入収支額も高かった原村の基盤産業であるが、その労働生産性は県平均・全国平均より若干高い。一方、特化係数が最も高かった「宿泊業」の労働生産性は全国平均の3分の1程度となっている。業務用機械器具製造業も特化係数が高い産業であったが、労働生産性は全国の4分の1程度という状況である。