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2016.09.26 議会改革

第4回 二元的代表制の「的」の意味を考える――二元的代表制=機関競争主義(上)――

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3 もう一歩先に:二元代表制の陥穽(かんせい)

(1)住民参加軽視としての二元代表制
 住民参加を軽視し、両機関の調整を視野に入れない二元代表制が散見される。住民自治論からの逸脱とはいえないまでも、二元的代表制=機関競争主義の立場からすれば、大きな欠陥である。再度、地方自治制度を豊富化する必要がある。
 こうした文脈から、二元代表制の批判が提起されている。その1つが二元代表制の活用によって住民参加の要素が欠落するというものである。「『二元的代表民主制』を、『二元代表制』と言い換え、その呼称が定着していくにつれて、次第にこの問題〔参加の拡充という改革を推進し既存制度を新しく定式化すること――引用者注〕から住民参加の要素が薄れていく」という指摘にみられる(牧原 2011:10)。
 地方自治制度は、議員とともに首長も住民が直接選出する点(まさに二元代表制)で国政(議院内閣制)と異なっているだけではない。国民代表制原理とは異なり、様々な直接民主制が導入され(直接請求等)、住民は選挙権行使だけではなく、政治や行政への様々な参加が可能であるし、おそらく価値的にすべきである。「現在使われている『二元代表制』は、もとをたどれば、住民参加とは対抗的な制度原理であり、これを際だたせる『二元的代表民主制』という『ドクトリン』を構成する言説が登場した」ことの意味を再度確認すべきである(牧原 2011:10)(6)。二元代表制の活用によって、議会だけ、逆に首長だけが強力であることを強調することは失当であるだけではなく、住民参加を無視することは地方自治を誤解している。両機関への住民参加は当然である。
 地方政治は、国政とは大きく異なる。議会と首長とを住民が直接選挙するかどうかだけではなく、直接請求権の有無という大きな違いがある。住民が積極的に政治行政に参加するのが地方政治である。議会と首長の対立が激化した場合、リコールや選挙を通じて住民が解決する。この点を曖昧にする地方政府形態論に矮小(わいしょう)化した「二元代表制」を用いるべきではない。

(2)調整手法の軽視としての二元代表制
 もう1つの二元代表制批判は、両機関の対立の激化が強調されることによって調整手法が軽視されることに対するものである。再議請求権といったものから不信任決議とそれに伴う解散、さらには住民によるリコールまで、両機関の調整制度は多様に存在している。この批判にはバリエーションがある。ここでは、調整機関として「場としての議会」を提案している議論を手がかりとしたい。あしきモデルとしての「二元代表制」は首長への住民参加を嫌悪し、並置した両機関の「対等二元代表制」は議会が「強迫観念に苛(さいな)まれる」とともに、それぞれが「住民代表機関」を宣言して、調整手法を軽視するというものである(金井 2012)(7)
 それは、二元代表制が有する議会と首長という別々の「住民代表機関」の設定に対する批判である。1つは首長二元的信任制(住民からだけではなく少なくとも議員の4分の1から信任される必要)、予算制度(議会は増額・減額修正が可能であるとともに、首長がその議決に対して執行を保留することは可能)、副首長二元的信任制(議会の同意を経て首長が任命)などを例示して調整制度が整備されていることからのものである。もう1つは、両機関はどちらも選挙における得票からみれば「住民代表」ではないことを強調する。部分的な代表制を全体化することが必要である。これらの理由によって、「場としての議会」が提案される(8)。日常的なしかも制度として組み込まれた調整手法を活用することを強調するだけではなく、二元代表制が有している両機関の並走を、討議空間としての議会(議員だけではなく、首長、副首長、さらには住民も含めた議会)という舞台を設定することによって調整することである。
 バーナード・クリックの「双方向のコミュニケーション・システムとしての議会」という視点を、空間として再定義した議論といえる。近代的議会を特徴付けたものであるが、「統治機構とか『人民の意志』の代表機関などとみなされるべきではなく、政府と人民の意志を結びつける双方向のコミュニケーション・システムとみなされるべき」と提案している(クリック 2003:81)。
 まさに、機関競争主義の作動は、「場としての議会」を必要としている。今日議会改革の必需品となっている反問(反論)権や住民との意見交換会(議会報告会)は、その重要な要素となる。それらを最初に議会基本条例に明記した栗山町議会基本条例は前文で「討論の広場」を強調する。「場としての議会」の萌芽は十分ある。同時に議会がそれに向かうための努力と、その思い(条例に「思い」が挿入されるのは珍しい)が明記されている。「自由かっ達な討議をとおして、これら論点、争点〔自治体事務の立案、決定、執行、評価における論点、争点――引用者注〕を発見、公開することは討論の広場である議会の第一の使命である」というように議会の使命を明記している。その「討論の広場」は議員だけではなく、首長等や住民も含まれる。「われわれは、地方自治法……が定める概括的な規定の遵守とともに、積極的な情報の創造と公開、政策活動への多様な町民参加の推進、議員間の自由な討議の展開、町長等の行政機関との持続的な緊張の保持、議員の自己研さんと資質の向上、公正性と透明性の確保、議会活動を支える体制の整備等について、この条例に定める議会としての独自の議会運営のルールを遵守し、実践することにより、町民に信頼され、存在感のある、豊かな議会を築きたいと思う」。
 機関競争主義は、住民、議会・議員、首長等の開かれた議会という「場としての議会」に結晶化する。


(1) 筆者には学会の通説かどうかは判定できない。一般的な教科書である、芦部(高橋(補訂)2015)では、二元(的)代表制という用語は用いられてはいない。野中・中村・高橋・高見(2015:372)では、「地方自治法は、首長制を基本としているが、アメリカ型の大統領制にはみられない議院内閣制の要素を加味して、わが国独自の二元的代表制をとっている」と二元(的)代表制を用いている。一見、議員内閣制の要素を加味することが「的」を挿入しているようにも読めるが、すぐ前のところで、アメリカを例に「委員会型」、「市支配人型」を例にして、日本でも「純然たる二元的代表制とは異なった組織形態を取り入れる余地が残されているという見解」もあるという。「独自の」、「純然たる」という表現の意味確定が必要だろう。
(2) 「二元代表制という表現は、限りなく大統領制に近づいてしま」う(今井 2011)という議論もある。なお、この論文は、二元代表制(二元的代表制)を歴史的にサーベイしている。併せて参照されたい。
(3) 現憲法や現地方自治法を前提に設計されている。当然、小規模自治体と大規模自治体の運営が異なる。それを踏まえた地方政府形態の抜本的改革は必要である。
(4) 西尾自身は、実際の機関対立主義の作動に当時疑問を投げかけている。実際には「一般に日本では、地方議会機能は昔も今も基本的に変わることなく、理事者〔執行機関の理事者――引用者注〕優位の体制下で低迷し続けている」(東京都 1977:78)。原理としては機関対立主義であるが、当時は作動していない。
(5) 議院内閣制の要素といっても、国政の内閣不信決議と地方政治の首長不信決議には相違がある。内閣不信任決議は、特別多数決とはなっていない(憲法69)。それに対して、地方政治では、首長の不信任決議は、定足数もハードルが高く(議員数の3分の2以上)、及び特別多数決(4分の3以上、ただし解散後の新たに招集された場合は過半数)となっている(自治法178)。
(6) 地方行財政検討会議で議論されてきた地方自治体の基本構造(地方政府形態)の多様性の議論は、二元代表制を中心に分離型・融合型の軸を設定して議論されていることには注意したい。そこに参加していた牧原が「『二元代表制』というやや硬質な概念を軸に、首長と議会とを並置するという発想が濃厚すぎるように思われる」と指摘している(牧原 2011:9)。今後も必要なこれをめぐる議論では、住民参加の軸を付加して議論すべきである。
(7) 「広場としての議会」には大いに賛同できる。ただし、首長、行政職員、そして住民が討議する際に個々の議員が行司・審判、議会が審判団という役割の規定には、違和感はある。「基本的な力士・選手は、あくまで住民と首長・行政職員である」というが、最終的な判断という意味では同意するが、議会・議員には行司・審判するための手法開発とともに、ときにプレイヤーであることが求められる。
(8) 筆者は、たとえ擬制であるとしても、両機関は「住民代表機関」として正統性を付与されていることを前提としていること、そして、この「住民代表機関」は絶対的なものではなく、地方自治の原則からすれば相対的なものだと理解している。この道筋は異なっているが、「場としての議会」には賛同する。かつて松下圭一が主張した「討論のヒロバ」にも共通するものである。

〔参考文献〕
◇芦部信喜(高橋和之補訂)(2015)『憲法〈第6版〉』岩波書店
◇今井照(2011)「二元『的』代表制を考える」日経グローカル№169~174
◇江藤俊昭(2004)『協働型議会の構想』信山社
◇江藤俊昭(2011a)『地方議会改革』学陽書房
◇江藤俊昭(2011b)「地域政治における首長主導型民主主義の精神史的地位」法学新報118巻3・4号
◇江藤俊昭(2012)「どの地域経営手法を選択するか――二元代表制を考える」地方自治778号
◇金井利之(2012)「ギカイ解体新書第8~11回」議員NAVI 29~32号
◇神原勝(2011)『増補版 自治・議会基本条例論――自治体運営の先端を拓く』公人の友社
◇東京都都民生活局企画部編集(1977)『都民参加の都政システム』(西尾勝執筆)
◇バーナード・クリック(添谷育志・金田耕一訳)(2003)『現代政治学入門』講談社(原書1987)81頁
◇野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利(2012)『憲法Ⅱ〈第5版〉』有斐閣
◇牧原出(2011)「『二元代表制』と『直接公選首長』」地方自治768号

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