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2016.09.26 議会改革

第4回 二元的代表制の「的」の意味を考える――二元的代表制=機関競争主義(上)――

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2 機関競争主義としての二元的代表制

 「二元代表制」は、単なる議会と首長の選出方法とそれらの作動だけで、調整の場は明示されず対立の激化という問題、議会と首長の代表の性格だけが強調され住民参加が軽視される問題があることを示唆した。この問題をより浮き彫りにするために、日本の地方自治の原則を確認することにしたい。二元代表制と似て非なる「二元的代表制」(機関対立主義=機関競争主義)に立ち戻ることにしよう(3)。それは、東京都(1977(西尾勝執筆))で提起されたものである(4)

 ①第一原理 議会も首長も住民から直接選挙されるという意味で、正統性は対等であり、議会=合議制、首長=独任制といった特性を生かして切磋琢磨(せっさたくま)する(正統性の対等性、両者の特性の相違を踏まえた対立・競争)。
 ②第二原理 政策過程において、議会や首長は権限が分有されていることにより、一方的な優位はあり得ず、相互作用によって地域経営は行われる(政策過程全体にわたって、両者の対立・競争)。
 ③第三原理 住民は行政の客体以前に「自治の主体」であることを考慮すれば、住民は議会と首長の「統制」を行わなければならない。政策過程全体での住民による統制、いわば住民参加・市民参加を行う。

 第一原理だけではなく、第二原理と第三原理が試金石である。両機関は政策形成過程、政策決定過程、政策執行過程でもどちらかが完全に独占しているわけではなく分掌している。両機関の競争関係に着目すれば「車の両輪」、「唇歯輔車(しんしほしゃ)」、対立関係に着目すれば「機関対立主義」(本連載では「機関競争主義」と呼称する)となるという(東京都 1977:75)。
 なお、西尾自身は第三原理を明示してはいない。とはいえ、機関対立主義を主題化した目的は、むしろこの第三原理の導出のためである。彼は、首長への住民参加に対する消極・否定論に基づいて住民参加を議会軽視だとみなす議論を「誤謬(ごびゅう)」と規定し、その意義を強調する。住民は「自治の主体」であるがゆえに、議会と首長それぞれを統制することができる、いわば住民参加・市民参加の実践である。様々な統制手法があるが、議会への参加、首長への参加が当然ありうる。このように、機関対立主義は、第一原理、第二原理だけではなく、第三原理を含めて考えるべきである。
 第一原理は、一般に承認される原理である。第二原理と第三原理へのかかわりが問われる。第三原理は、住民参加を積極的に進める視点があるかどうかである。そして、第二原理は、両機関がそれぞれの特性を生かして競争する場をどのように設定するかである。この設定が不明確な場合に単なる意見の相違の開陳で終わることを機関対立主義は想定しているわけではない。このように考えれば、二元的代表制の「的」は、住民参加の充実と、他方では両機関がそれぞれに「住民代表機関」という正統性を強調してデッドロックに陥らないような緊張関係を踏まえた相互作用を強調しているといえる。この「的」の意味は重い。「的」を入れることにより単に議院内閣制の要素(首長不信任決議、議会解散)が挿入されているからだけではない(5)。二元的代表制が革新自治体下の住民参加を充実させるために、首長への住民参加を議会軽視だとみなす議論に対抗した時代の産物だとしても、再度「的」の意味を豊富化すべきである。

☆キーワード☆
【「議会迂回」説の誤謬】
 西尾勝は、市民参加を重視する議論に対して議会軽視だという立論を「議会迂回」説と呼び、その誤謬を指摘していた。「市民参加の論陣をはっている政治学者に散見される」この誤謬の論点は、次の4点である。住民自治を考える際には、常に反省されるべき視点である(東京都 1977)。
 「第1に、二元代表民主制の原理を一応解説しながら、なおかつ、『政治』、『正統性』、『討論の場』、『責任』等を議会の独占物であるがごとく誤認し、公選市長を市民の『代表者』、『政治の担い手』、『政治責任の担い手』と認めていないことである。/第2に、長(受託者)と市民(信託者)との交流は議会を媒介経由する必要はどこにもないにもかかわらず、両者の直結を『迂回する』とか『とび越えて』と表現していることである。/第3に、長と市民の直結は長による市民の包括と長の権能強化をもたらすという一面だけを過度に強調し、市民側からみれば、長の強大な権能を統制するためにこそ参加が必要であるというもう1つの側面を無視していることである。/そして第4に、長の権能行使への参加がいつのまにか行政部(=官僚制)への参加と同一視され、代表機関たる長とその補助機関にすぎない職員機構との決定的な差異が認識されていないことである」(78頁)。こうして、「新しい参加制度の大半が、長と市民の相互交流を目指しているのは、長側の動機と市民側の動機が合致しているからであり、長の直接公選制が予定した当然の帰結である」と結論付けている。

 なお、その上で筆者が機関対立主義ではなく、機関競争主義として再定義しているのは、機関対立主義の「対立」が恒常的な対立の激化や首長の不信任決議などの対立をイメージしやすいことがその理由である。それ以上に、「的」に宿っている意味、つまり第二原理を想定して、今後は議会と執行機関が競争しながらよりよい地域経営を行うこと、及び第三原理である住民参加、つまり住民からの賛同をめぐっての両機関の競争を強調するためである。40年近く前に発見された二元的代表制=機関競争主義は、すでに住民自治の実践の中で豊富化されている。首長等の政策サイクルは定着している。また、議会は議会報告会(住民との意見交換会)や議会からの政策サイクル(会津若松市議会、飯田市議会等)を充実させている。
 機関競争主義は、議会と首長とが政策サイクルで競争することを強調している。とはいえ、その競争にあたって、それぞれが同様の役割を担うわけではない。議会は合議制、首長は独任制である。前者は討議に、後者はリーダーシップに長(た)けている。また、政策サイクルに活用できる組織・人材・財源といった資源が異なっている。議会事務局等の現状を考えれば、首長の政策サイクルと同様なことを議会はできない。議会は多様性ある合議制という特性を生かすために、限られた資源に基づいて政策サイクルを作動させることになる。

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