2016.09.26 議会改革
『地方議会に関する研究会報告書』について(その15)
有権者と政党との関係
以上のように、政党も会派も、カネとポストの配分基準という身も蓋もない本稿の議論に対して、『報告書』はもっと高邁(こうまい)である。それによれば、政党の機能は、「有権者の利益・意見を集約し、代表する機能、政治リーダーの補充・選出・提供機能、有権者の利益・意見を政策に転換し実行に移す機能」だとされている。つまり、「政党は地方政治ないし地方議会と住民とをつなぐ導管の役割を果たす可能性がある」と指摘されている。
もっとも、こうした導管(パイプ)の役割も、カネとポストと無縁ではない。有権者と地方議会をつなぐパイプは、「民意」という住民の政策意向という情報を単に伝達するのではなく、その情報は、カネやポストという資源配分を管制するコントロール情報なのである。というのは、選挙政治とは、結局、有権者からの集票によってポストを配分することであり、その獲得したポストをもとに、公金=予算(カネ)という「戦利品」(スポイルズ)の分配を図るものであるから、結局、カネとポストの配分には、有権者を巻き込むしかない。
さらにいえば、有権者側も、この同じ導管を使って、カネとポストの逆流的な配分を求める。政党や候補者を支援することでポストを得ようとするのが、いわゆる猟官制である。要は、有権者は自分や関係者がおいしいポストを得ようとして、政党を応援する。政党は、集票のために、有権者にポストをばらまく。もちろん、こうしたポスト配分は、情実任用(コネ人事)と呼ばれ、無能な行政職員をはびこらせる腐敗であるから、原則的には否定されている。能力実証主義・成績主義・メリットシステムと呼ばれるポスト配分は、要は、選挙での応援ではなく、採用試験の正式で決めるという方式である。しかし、こうした猟官制的側面が皆無とはいえないのが、自治体の実情である。
カネに関しては、規制はもっと緩やかである。応援してくれた業者に発注することは、露骨にはできない。一般競争入札制であればなおさらである。あるいは、業者間での談合秩序が強固に成立している場合には、別の意味で、選挙結果は発注の配分に影響しない。しかし、現実はその中間にあるのであって、誰が選挙で当選したかが、じんわりと発注に影響する。そのほか、どのような事業を自治体が行うかという政策判断自体が、特定の住民や業者に有利に作用することはある。政治的決定とは価値の権威的配分である以上、ある予算配分は、ある人に有利になり、ある人に不利になるのは、避けがたい。こうした政策決定を、住民全体の公益の観点から、住民全体の代表としての政治家が公平に決定することが建前論だとはしても、結果的には、政治家は支援者への利益誘導も配慮せざるを得ないのである。つまり、政党とは、有権者を巻き込んだカネとポストの配分の基準なのである。
後援会と政党
もっとも、有権者と政治家の間のカネとポストをめぐる導管は、実は後援会でも充分である。有権者は後援会に参画・貢献し、後援会は候補者を支援し、支援した候補者が当選することで、カネとポストの分け前にありつく。候補者は、有権者へのカネとポストの配分を約束することで当選し、自らのカネとポストを獲得し、それを活用して、有権者にカネとポストを配分する。こうした役割や機能を果たすのは後援会である。
後援会があれば、政党が存在する必要はない。そもそも、市町村レベルで、政党組織がきちんとしている保証はない。また、政党から複数の候補が立候補する場合、当該政党がある候補者をまじめに応援するとは限らない。つまり、候補者個人から見ても、候補者を介してカネとポストに預かろうとする有権者からしても、政党は必ずしも当てにはならない。候補者とは別個に存在する政党組織は、候補者にとって信用に値しないのである。
したがって、候補者独自の後援会をまず組織するのが肝要である。そのような後援会があれば政党は不要である、あるいは、こうした後援会組織が、政党組織の市町村レベルでの実態となる。候補者や有権者が政党組織に依存するのではなく、政党が末端組織を候補者・有権者の組織した後援会に依存するときに、初めて、政党と候補者・有権者には信頼関係が構築できるのである。
もちろん、地方議員の場合には、大がかりな後援会組織が存在するとは限らない。文字どおり、候補者=議員が1人で「お知らせ」のビラ執筆・印刷・配布をし、1人で駅前の辻立ちをして、1人で陳情に応対するような、手弁当のこともある。しかし、選挙活動・政治活動を一緒に行う複数人が組織されることもある。これが後援会機能を果たしているのである。
議員個々人が後援会をもって有権者との導管を形成し、議会内では会派を結成すれば、そもそも政党の存在理由はないのである。逆にいえば、政党とは、会派と後援会を兼ね備えた組織であるということができる。そして、それは、有権者と候補者=議員個人と議事機関としての議会という三者をつなぐ、カネとポストの導管なのである。
【つづく】
(1) 『報告書』そのものに忠実に表現すると、「Ⅴ」とローマ数字が裸で記載されており、「第Ⅴ章」という表記ではない。しかし、本稿では、単に「Ⅰ」「Ⅱ」……では分かりにくいので、章立てとみなして、「第Ⅰ章」「第Ⅱ章」……と表記する。その下位項目は「1」「2」……であるが、「第1節」「第2節」と表記する。さらに、その下位項目は、(1)①となっている。