2016.09.26 議会改革
『地方議会に関する研究会報告書』について(その15)
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
これまで14回にわたり、総務省に設置された「地方議会に関する研究会」の最終報告書である『地方議会に関する研究会報告書』(以下『報告書』という)を検討した。前回から「第Ⅴ章(1) 地方議会における政党及び選挙制度のあり方」の検討に入ったところである。前回は、「第1節 地方議会における政党等のあり方 (1)地方議会における政党及び会派の状況」において、さりげなく「等」と触れられている「会派」について、その機能と役割をカネとポストの観点から論じた。それを受けて、今回は「(2)政党に期待される役割・機能」を論じていこう。
会派と政党
会派と政党の異同については、『報告書』では、必ずしも明示的には論じられていない。前回検討したように、会派とは、当選した議員に対して、カネとポストを配分するための基準として機能するものである。この基準は、人数に応じた比例配分的なときと、勝者総取り的な単純多数決配分のときと、両方あり得る。ともあれ、議員に当選しなければ意味がない。
政党も、所詮はカネとポストをめぐる基準だと考えれば、会派と同じである。例えば、政党交付金というカネが、会派別の議席とは別の基準に基づいて、政党別に配分されるのであれば、政党はカネの配分を決める尺度として機能する。しかし、それゆえに、会派と同じ機能を有する。また、選挙が比例代表制であるならば、政党は議席というポストを配分する基準である。あるいは、小選挙区制で、「政党本位の選挙」と称して、候補者が誰であるかは実際にはどうでもよく、ただ何党公認候補かで当選を決めるのであれば、勝者総取り的なポスト配分基準となる。こうして見ると、政党と会派は、カネとポストの配分基準として、近似した機能を持つといえる。
実際、カネとポストを配分する以上、同じような政策指向性や政治信条を持つ集団でなければ、配分された後で内輪揉(も)めが著しく発生する。例えば、委員会の委員というポストを会派別に割り振るということは、会派内で具体的にどの議員が当該委員会に出席するかで、大して差異がないということを前提にしなければならない。というのは、A会派のB議員とC議員の賛否や政策指向性が異なるのであれば、委員会の意思決定や採決に大きな差異をもたらすからである。
その意味で、カネとポストを配分する会派は、それゆえにこそ、政策指向性や政治信条が同じような集団でなければならない。通常、政党は、綱領などの大まかな政策方針を共有する集団と考えられているが、それゆえにこそ、会派として、カネとポストの配分基準にも使える。つまり、会派と政党は近似し、会派は政党に基づいて結成される。もっとも、すでに述べたように、圧倒的多数が保守系無所属の市町村議会においては、このように政策指向性や政治信条に基づいて巨大会派が結成されても、意味がない。内部でのカネとポストの配分基準としては役に立たないからである。したがって、しばしば、政党とは無関係に、「〇〇会」、「〇〇クラブ」等と称する、名称だけでは意味不明な会派に分裂せざるを得ない。通常は、議長選・首長選という勝者総取りのポストと配分をめぐるしこりから、会派が形成される。
巨大会派=政党
都道府県議会のように、比較的に国政政党のラインに基づいて会派が結成されると、結果的には、自民党系会派が巨大集団となることも生じる。このように一強多(他)弱の巨大会派がある場合には、カネとポストを当該巨大会派が得るのは当然なのであるが、問題は巨大会派内での配分基準である。そこで、真に会派機能を果たすのは、巨大政党=会派内の派閥でなければならない。
仮に巨大政党=会派内に派閥が形成されていないとすれば、カネとポストをめぐる争いがないということであるから、当該巨大会派=政党は、「ドン支配」や「民主集中制」のように一部幹部に党内政治権力が集中しているか、あるいは、当選期数や地域などの別の基準によって機械的・画一的にポストやカネが配分されるという「官僚制化」が進んでいるといえよう。