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2016.09.12 政策研究

発祥の品々から国の未来の姿まで示すスイスブランド博物館

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元日本経済新聞論説委員 井上繁

 スイスと聞いて読者は何を思い浮かべるだろうか。アニメファンなら「ハイジ」、災害時の医療支援なら「赤十字」といったところか。実はこれもスイス生まれという数々の製品などを集めたスイスブランド博物館が首都ベルンにある。
 1983年にユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界文化遺産の指定を受けた「ベルンの旧市街」は、蛇行して流れるアーレ川中州の高台に広がっている。スイスブランド博物館は、その入り口にかかるニーデック橋のたもとに位置する。歴史好きの青年が、市の管理する昔の税関の建物を借りて2015年4月に開業した。入場は無料である。1年間で約6,000人が訪れた。
 博物館は、2階建てで、日本でいえば地方都市の駅前の交番くらいの大きさである。全部で4室あり、常設展示場は急な階段を上った東側にある。その中央には、赤十字のエンブレムやスイスの国旗が並んでいる。スイスブランド博物館の資料によると、赤十字の創設者、アンリ・デュナンは傷病兵のための国境を超えた救援組織「赤十字国際委員会」を提唱し、1860年代に創設した。
 山国のこの国ではスキーが盛んである。ジョセフ・ストックリーは友人などから50本のスキーを受注し、1935年に親の木工所でスキーの生産を始めた。翌年、ストックリー社を設立、今日では有力なスキー用具のブランドに育っている。階段脇の入り口には、メーカー名を大きく記した当時の赤いスキー板が立てかけてある。
 白い文字盤に黒い目盛りと、時刻を示す2本の黒い針。長めの赤い秒針は、秒単位で正確に動く列車を象徴する。スイス国鉄(SBB)自慢の「駅の時計」は1944年にSBBの技師H・ヒルフィカーが開発した。今日も3,000余のSBBの駅で発車の羅針盤の役を果たしている。スウォッチも時計のブランドとして著名である。
 日常品では、アルミホイルは20世紀の初頭にスイス人の企業家が発明している。野菜の皮むき器も1947年に開発、製造を始めて以来、ロングセラー商品になっている。
 酪農国だけにそれに関連した食品は多彩である。オートミールや穀物をすりつぶしたものにドライフルーツやナッツ類を混ぜ、牛乳、ヨーグルト、オレンジジュースなどでふやかして食べるミューズリーはスイス中部の生まれである。もともとは羊飼いの携帯食だったが、その栄養価を評価した医師が病院食に取り入れ、家庭にも広がった。今では、世界40か国以上で朝の食卓などに並ぶという。
 インスタントのソリュブルコーヒー「ネスカフェ」は1938年にスイスで生まれ、販売を開始した。今日では、全世界で1秒間に5,500杯以上が飲まれていると同社は説明する。ミルクチョコレートは、1875年に、スイス人のダニエル・ピーターがカカオペーストの粉末に、砂糖、バターなどを加える製法を開発して生み出した。
 スイスはEU(欧州連合)やユーロに加盟せず、永世中立を守っている。国土は九州より狭いが、難民などを多数受け入れており、多彩な人種が暮らす。ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマニッシュ語の4言語を公用語にしている。このため、自分たちの住む国全体の歴史や産業についての知識が乏しい人も少なくない。
 バーゼル大学でアートの歴史を学んだクリスチャン・ヘルン氏(1992年生まれ)は「もっと国のよさを皆に知ってもらえれば」と考え、ブランド品のメーカーなどに働きかけてこの博物館を設置した。実際に開業したら国外からの観光客もかなり訪れていることがわかった。
 1階の東側には売店があり、常設展に関連した商品や土産品、記念品などを販売している。1階の西側は企画展、2階の西側はビデオルームである。ここでは19世紀後半から20世紀にかけてのスイスのフィルムを、年代を指定して鑑賞できる。2016年6月には、2055年や2066年など未来のスイスの姿を予想するビデオを追加した。「子どもたちが将来のことを考えるきっかけになれば」(クリスチャン・ヘルン氏)との思いを込めている。ドイツ語版とフランス語版がある。フランスのシャンパーニュ・アルデンヌ州から高校生の息子と訪れたK・ジーヌさんは「隣国の未来を想像できて楽しい」と満足げな様子だった。

中央に赤十字のエンブレムとスイス国旗が並ぶ常設展示場(奥はビデオルーム)中央に赤十字のエンブレムとスイス国旗が並ぶ常設展示場(奥はビデオルーム)

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