2016.09.12 政策研究
【フォーカス!】中央省庁移転
国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。
全省庁対象で論議を
安倍政権が進める地方創生で一つの成果が出た。政府のまち・ひと・しごと創生本部は9月1日、「政府関係機関の地方移転にかかる今後の取組について」として、文化庁など中央省庁移転の対応方針を決めたのだ。
これをどう評価するのか。地元では歓迎の声も出ただろうが、政権が掲げる地方創生や東京一極集中の是正という観点からは、小さな始まりにすぎない。これを第一歩として、全省庁を対象にした移転論議を活発化させてほしいと願うしかない。
内容を確認しておこう。文化庁を京都に「全面的に移転」するため2017年度、京都市に「地域文化創造本部」を設置して文化庁の一部を先行的に移転する。2018年1月からの通常国会に文部科学省設置法の改正案を提出、分離により必要となる組織体制を整備するとした。だが、いつ全面的に移転するかは記されておらず、監視が必要だ。
消費者庁については、2017年度に消費者政策の研究・立案拠点となる「消費者行政新未来創造オフィス」を開設し、分析・研究、実証実験などのプロジェクトを集中的に実施し、3年後をめどに検証を行い見直すとした。つまりは、移転の可否の判断を先送りしたということだ。
総務省統計局は、和歌山県に「統計データ利活用センター」を置き、2018年度から統計ミクロデータ提供などの業務を実施するという内容だ。つまりは、移転はなく、一部の仕事を移すだけである。
今年3月の基本方針で移転対象外となっていた省庁のうち、特許庁はワンストップサービス機能を強化する「近畿統括拠点」を整備するとした。ほかに、①中小企業庁は近畿経済産業局の組織改編を行い政策の企画・立案の高度化を推進する、②観光庁は2017年度から「観光ビジョン推進地方ブロック戦略会議」を運営し地方運輸局に必要な体制を充実・強化する、③気象庁は三重県と共同で研究会を設置する―などとしている。いずれも国の地方出先機関の機能強化などでしかない。
さらに、今後の取組の中には第2弾、第3弾の地方移転があるかどうかについても記されていない。国が率先垂範することで、民間企業が本社機能を地方に移すきっかけにしたいという思惑もあったはずだが、この内容ではあまりに不十分である。掛け声倒れと批判されても仕方あるまい。
中央省庁の移転は地方創生、人口減少対策の第一歩として期待する声は強く、政府の本気度が問われているとも言える。全国知事会には、全省庁を対象にした上で、数値目標を設定するよう求める声もあるぐらいだ。
安倍政権が地方創生、東京一極集中の是正を掲げ続けるのであれば、今回のように誘致したい道府県が手を挙げる方式ではなく、すべての中央省庁を対象に国主導で移転を議論すべできだろう。
首都直下地震といった防災面からも、政府のバックアップ機能や中央省庁の一部を東京圏外に置くことが重要であることも忘れてはいけない。