2016.08.25 議会改革
『地方議会に関する研究会報告書』について(その14)
つまり、委員会・調査会のように、各院全員によらない会議体を構成するときに、アンバランスにならないように、一種の比例配分的な発想から、院内の議員全員の縮図を構成するために、とりあえず会派に分けておこうというものである。理屈上は、地域別に委員会・調査会メンバーを割り振ってもよいのであろうが、「意見の同じような」メンバーから比例選出するために、会派が想定されているわけである。もっとも、会派がいかなる原理で結成されるかは規定されていないので、地域別会派が結成されれば、地域別の比例配分も可能である。そもそも、会派が「意見の同じような」議員の集まりという保証もない。
ともあれ、この国会法の会派の考え方を前提にすれば、自治体議会での会派も、委員会メンバー選出を比例配分するためのものと推論できよう。逆にいえば、少人数の自治体議会の場合には、委員会を置かないことも可能であるので、そのときには、会派は不要であるといえる。
なお、国会の会派も、「金目」と無関係というわけではない。「国会における各会派に対する立法事務費の交付に関する法律」によれば、
第一条 国会が国の唯一の立法機関たる性質にかんがみ、国会議員の立法に関する調査研究の推進に資するため必要な経費の一部として、各議院における各会派(ここにいう会派には、政治資金規正法(昭和二十三年法律第百九十四号)第六条第一項の規定による届出のあつた政治団体で議院におけるその所属議員が一人の場合を含む。以下同じ。)に対し、立法事務費を交付する。
2 前項の立法事務費は、議員に対しては交付しないものとする。
第五条 各会派の認定は、各議院の議院運営委員会の議決によつて決定する。
となっている。つまり、会派間で立法事務費を比例配分しようというものである。国会法の会派とは若干異なっており、1人会派が可能であることと、議院運営委員会の議決による認定が必要である。
会派の機能
『報告書』では、会派の役割・機能は論じられていない。「(2)政党に期待される役割・機能」と微妙に抜け落とされており、会派の役割・機能に関する検討は、欠損しているのである。では、会派の役割・機能は何であろうか。
上記の法律の規定から推論するに、端的にいえば、会派とは、議会内における委員会ポストと政務活動費という有限資源の分捕り合戦を比例配分するための算定基準である。議会で議員たちが争うのは、ポストとカネである。ポストは委員会多数派を掌握することに用いられるのが基本であるが、多数を掌握できなくとも発言権を左右する。つまり、権力を左右する。権力と資金をめぐる戦いなのである。そして、ポスト=権力にとって重要なのは、委員会のメンバー配分以上に、正副議長・正副委員長ポストということになる。つまり、会派は、こうした議会でのポスト争いの基盤なのである。
したがって、自治体議会で結成される会派は、必ずしも全国政党系列と同じではない。いや、しばしば、平均的規模の市議会のレベルでは、議長選挙その他をめぐる争いから、保守系会派が分立することも、普通に見られる。なぜならば、多くの議員が保守系無所属の場合、全国政党系列では、ポストとカネの配分には役に立たないからである。圧倒的多数の保守系無所属が単一会派を結成してしまえば、その保守系会派の中での配分がもめるのであって、ポストとカネを配分するという会派本来の機能を果たさない。こうして、ポストとカネをめぐる多人数の争いがある限り、会派は必要である。
逆にいえば、議員総数が少数であれば、会派を結成するまでもなく、各議員の合従連衡でポストとカネを配分すればよい。その場合には、名目的に会派は存在していないとしても、ポストとカネの配分の算定基準は存在しているのであるから、実質的には会派があるのと同じである。つまり、会派のない議会においても、会派の機能は存在するのである。したがって、会派の有無に関して統計をとることは、ほとんど無意味である。ちなみに、『報告書』によれば、都道府県議会・指定都市議会・中核市議会では全団体で会派が結成され、その他市区議会では90%弱、町村議会では17%程度だという。端的にいって、議会の規模次第である。したがって、議員定数の小さい町村議会では、会派はほとんど必要はない。だからといって、町村議会でポストとカネの配分争いがないわけではないのである。
【つづく】
(1) 『報告書』そのものに忠実に表現すると、「Ⅳ」とローマ数字が裸で記載されており、「第Ⅳ章」という表記ではない。しかし、本稿では、単に「Ⅰ」「Ⅱ」……では分かりにくいので、章立てとみなして、「第Ⅰ章」「第Ⅱ章」……と表記する。その下位項目は「1」「2」……であるが、「第1節」「第2節」と表記する。さらに、その下位項目は、(1)①となっている。