2016.08.10 政策研究
【フォーカス!特別編】全国知事会議~隠れテーマは東京一極集中~参院合区解消で決議を採択~「安倍1強」にどう対峙
1票の格差と憲法改正
知事会議で最も盛り上がったのは、7月10日投開票の参院選で初めて導入された選挙区の合区の解消を求める決議についての議論だ。28日に審議され、文案の修正を経て最終日の29日に採択された。
決議は「憲法公布以来、参院は都道府県単位で代表を選出し、地方の声を国政に届ける役割を果たしてきた」と参院の意義を紹介した。合区の導入によって「投票率低下や、(鳥取県のように)自県を代表する議員が出せないなどの弊害が顕在化している」と指摘、「多様な地方の意見が、国政の中でしっかり反映される」ためにも「合区を早急に解消させる対応を図られるよう求める」としている。
合区は2015年7月の公選法改正に基づくものだが、その附則では2019年の参院選に向け選挙制度を抜本的に見直すことが示されている。改正については、国会議員に働き掛けるしかないが「知事会が一致したことは大きな影響力がある」(山田会長)。当面は公選法を改正して選挙区の定数を増やし1票の格差を減らすよう求めることが中心となりそうだ。
知事会が合区解消を急ぐ理由には、このペースで都市への人口集中、少子化が続けば、1票の格差がますます広がり、是正のためにはさらなる合区が必要となるからだ。実際、2014年4月に出された「参院選挙制度の見直しについての座長案」では、岩手・秋田(定数2)、宮城・山形(2)、新潟・富山(2)、石川・福井(1)、山梨・長野(2)、大阪・和歌山(5)、鳥取・島根(1)、香川・愛媛(2)、徳島・高知(1)、福岡・佐賀(3)、宮崎・鹿児島(2)という形で合区案が示されている。この一部が実践されたわけで、多くの地方にとっては明日はわが身の死活問題である。
このため決議には「将来を見据え、最高裁の判例を踏まえ憲法改正についても議論すべきだ」とした。憲法改正によって、参院を地域代表制として位置付けることも暗に求めた。ただ、知事会も一枚岩ではない。決議には「一部反対意見(大阪府)及び慎重意見(愛知県)があったことを申し添える」と異例の“両論併記”となった。
反対する大阪府の松井一郎知事の意見は「参院を地域代表にする仕組みに反対。現行の憲法では国会議員は全国民の代表である」(不参加のため代理が発言)。愛知県の大村秀章知事も「憲法上の議論、論点などいろいろありハードルが高い」などだった。広島、神奈川も含めて道州制を視野に入れている府県にとっては、憲法を改正して参院を地域代表制と明記することは、都道府県制度の固定化につながるとの考えもあるようだ。
会議では合区を経験した県から厳しい意見が出された。「合区によってとてつもない不平等を被った。参院議員1人当たりの高知と東京の面積比はもともと19.5対1だったが、合区によって30.8対1となった。2010年から2015年の国勢調査までの間、高知県の議員数は5人から3.5人まで約30%減った。人口は4.7%減ったにすぎない。生の声を議員に届ける機会が失われる。高知だけの問題ではない。首都圏ばかり議員が増え、地方は衰退する」(尾崎正直高知県知事)、「地方行政が都道府県単位で行われているのを知らないのか」(溝口善兵衛島根県知事)などだ。
考えられる参院の合区の解消策は、①都道府県に2人以上の定数を置きながら「1票の格差」を是正するため公選法を改正して人口の多い選挙区の定数を増やす、②国会法を改正して参院を「都道府県代表制」と位置付ける、③憲法43条を改正し参院を「地方の府」と位置付け都道府県単位による選挙を必須にするという憲法への明記によって1票の格差の問題から脱却を図る―などがある。
いずれにせよ、人口による「1票の格差是正」という最高裁の考えと、地域代表制の両立は難しい。参院を地方代表に位置付ける憲法改正が王道だが、他の条文の改正とも絡み、先は見通せない。最高裁に対する回答として立法府は、合区という武器を手に入れた。さらなる違憲判決が続けば、合区という安易な解決方法に逃げ込む可能性が強い。国会にどう働き掛け、決議を実現するのか。知事会の大きなテーマである。
沖縄研究会
7月29日の議論は、日本にある米軍基地の4分の3が沖縄に集中する現状をどうするのかが話し合われ、基地負担の軽減を目指して、知事会内に研究会をつくることを決めた。沖縄問題に初めて組織として対応することは評価できるが、メンバーの構成や議論の進め方はこれからだという。
安倍首相が圧倒的な力を持つ中、「日米地位協定の見直し」といった政権の考えとは異なり、政権との対立も辞さないような提言を表明できるのかが焦点となる。
会議には翁長雄志沖縄県知事が出席し、沖縄の置かれている現状を説明した上で、「日米安全保障体制の必要性は沖縄県においても理解する立場だ。沖縄県では知事選、衆院選挙区、県議会議員選、参院選などさまざまな選挙で辺野古新基地建設に反対する民意が示されているが、政府は一顧だにしない」などと指摘、「沖縄の基地問題は1都道府県の問題ではなく、日本の民主主義と地方自治が問われている問題だ」と訴えた。
これに対し「基地が所在していない自治体にも米軍基地の状況や現状をご理解いただくことは大変有意義」(黒岩祐治神奈川県知事)、「基地問題はセンシティブで総論賛成、各論反対の世界。大変難しい問題なので一つ一つ障害を外していく方法を取ることで連帯していく」(上田清司埼玉県知事)、「不平等条約といっていい日米地位協定の抜本的な改革がまずは落としどころになる」(川勝平太静岡県知事)、「国民同士の対話という次元で考えれば、もっと思い切った根本的な負担軽減、国外へという形もできる」(達増拓也岩手県知事)と前向きな意見が相次いだ。