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2016.08.10 政策研究

第2回 ヘイトスピーチ解消法及び大阪市ヘイトスピーチ対処条例の検討

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5 法律及び条例の特徴と運用

(1)ヘイトスピーチ解消法
ア ヘイトスピーチ解消法の特徴

 ヘイトスピーチ解消法の特徴は、ヘイトスピーチ(「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」)の定義を行い、かつ前文においてそのような不当な差別的言動が許されないことを宣言していることにある。
 定義については、言動の目的、態様、動機及び効果を要件としており、法が問題としているヘイトスピーチの範囲は相当程度明確化されている。他方で、ヘイトスピーチが「許されない」との前文での宣言については、あくまで宣言にすぎず、それ自体で法的効果をもたらすものではない。この点は、ヘイトスピーチへの実効性ある対応を求める立場から見たとき、踏み込み不足との評価もあると思われる。
 ヘイトスピーチ解消法が成立した国会では、民主党(現民進党)、社会民主党及び無所属の議員らによって参議院に提出された「人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律案」(第189回国会参法第7号)が前年から継続審議されていたが、最終的には与野党が歩み寄り、ヘイトスピーチ解消法を成立させることで一致した経緯がある。この野党の法案は、人種差別撤廃条約を受けた基本法との位置付けであり、人種差別等の一種としてのヘイトスピーチを禁止する旨を規定していた(ただし、刑事罰は設けていない)。
 野党の法案で規定したような「禁止」とヘイトスピーチ解消法での「許されない」との宣言とでは、罰則付きの禁止でないとしても、法的には大きな違いがある。特にヘイトスピーチが禁止された違法な行為とされていれば、マイノリティに属する人々にとっては、民事裁判手続を通じた事前及び事後の救済の道が大きく開かれることになったのではないかと考えられる。
 他方で、罰則を設けないとしても、国家が特定の表現行為について、表現内容を理由として違法化することについては、前述した表現の自由の規制との関係、特に厳格な審査基準をクリアできるのかについて問題が生じうる。今回のヘイトスピーチ解消法での「許されない」との宣言は、こうした懸念を踏まえた現実的な「落としどころ」だったと思われる。

イ ヘイトスピーチ解消法を根拠としてどのような対応が可能になるか
 前述のとおり、ヘイトスピーチ解消法はヘイトスピーチを違法化するものではなく、むしろ社会の中におけるヘイトスピーチを解消するために国及び地方自治体が負う責務(4条)と取り組むべき基本的施策(5条〜7条)を定めることに主眼が置かれている。しかし、今後計画されるヘイトスピーチを伴うデモ・街宣活動への行政や司法の対応に一定程度の影響が予想される。

(ア)行政による対応の変化
A 警察、自治体の対応の変化

 例えば、ヘイトスピーチ解消法の公布・施行に伴い、警察庁警備局長及び警察庁長官官房長名で発出された本年6月3日付通達では、「ヘイトスピーチといわれる言動やこれに伴う活動について違法行為を認知した際には厳正に対処するなどにより、不当な差別的言動の解消に向けた取組に寄与」するよう、各都道府県警察の長に求めている。違法行為があればこれに対処することは警察の本来の任務である。それにもかかわらず、ヘイトスピーチ解消法の施行を契機として、取り立てて「不当な差別的言動の解消に向けた取組に寄与」することを目的に、「厳正に対処」することを強調していることから、今後計画されるヘイトスピーチを伴うデモ・街宣活動の抑止力となることが予想される。
 また、ヘイトスピーチ解消法の成立後、川崎市は、同法の施行後である6月5日に計画されていたヘイトスピーチデモに関し、デモの起点となる公園(市管理)の使用を不許可とした。自治体が差別的言動を理由に管理する施設の使用を不許可にしたのは全国でも初めてのことであり、ヘイトスピーチ解消法が施設の使用許可に関する自治体の判断に影響することが明らかになった。

B 警察、自治体による対応の限界
 ただし、行政がヘイトスピーチ解消法を理由としてヘイトスピーチを伴うデモ・街宣活動の開催を止めることができるかについては、一定の限界があることも指摘しておきたい。
 まず、前記川崎市のデモは、公園の使用は断念したものの、デモ行進に伴う道路の使用及びデモ行進の許可を神奈川県警に申請し、その許可を得た。神奈川県警は、ヘイトスピーチ解消法の施行によっても、道路の使用許可基準(道路交通法77条2項各号)やデモの許可基準(神奈川県「集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例」3条1項)の解釈に変更が生じないと考えたものと思われる(もっとも、報道によれば、神奈川県警は申請を行った主催者に対してヘイトスピーチ解消法の趣旨を説明し、デモの中止を促したようである)。
 また、前述した川崎市の判断についても、「不当な差別的言動は許されない」との宣言を行ったにすぎず、ヘイトスピーチを違法化していないヘイトスピーチ解消法だけを根拠として公園の使用許可を拒むことは、正当な理由がない限り公の施設の利用を拒絶してはならず、公の施設の利用について不当な差別的取扱いをしてはならないと規定する地方自治法244条2項、3項に違反する可能性がある。川崎市都市公園条例は、集会等のために公園の全部又は一部を独占して利用することについて、「公園の利用に支障を及ぼさないと認める場合に限り」許可を与えることができると規定するが(同条例3条1項4号及び4項)、ここでの「支障」の有無の判断に当たって、集会等の目的や表現内容(メッセージ内容)を理由とすることは、前記地方自治法の条項に違反すると思われる。今後、ヘイトスピーチを伴うデモ・宣伝活動等を計画する者が地方自治体の管理する施設の使用許可申請を行った場合、ヘイトスピーチ解消法を踏まえてどのような判断を行うべきか、各自治体が検討することになるが、前記法的リスクの評価が分かれることが予想される。

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