2016.07.25 議会改革
第3回 地方分権改革の動向と住民自治の課題
なお、地方分権改革により地方政府の権力が常に増大するわけではないという視点も持つべきであろう。「分権改革が下位政府の権力強化をもたらす」と地方分権改革の提唱者も批判者も指摘しているが、それは分権改革がよりよい政治であるということとともに、誤解だということである(秋月・南 2016:184-185)。この視点に基づき、検証可能な比較研究が必要である(3)。
同時に、事務事業の執行権限の移譲は、「地方分権の推進ではあっても、地方自治の拡充になるとは限らない」という視点も重要である。住民自治の進展とは別問題だということ以上に、地方分権改革は「自律的領域(団体自治)の範囲それ自体についても自己決定し自治体政策を自由に取捨選択したいと願う、地域住民の自治願望と鋭く対立」する可能性があるからである(西尾 2007:247)。この視点は持ち続けたい。
~理解をさらに深めるために~
① 地方分権改革には、関与の縮小路線と、事務事業の移譲路線が併存している。とりわけ後者の路線は、「受け皿整備」の議論に直結し、市町村合併、道州制の推進に直結する。
② 地方分権改革は、6団体の一致する事項が主として取り上げられている。今後独自の改革構想、したがって6団体内部の緊張を伴う構想も必要となる。
③ 地方分権改革が住民自治を進めるとは限らない。今日進展している地方分権改革で最も遅れているのは、住民自治の改革、とりわけ議会改革である。
④ とはいえ、地方分権改革の進展により住民自治は進化している。自治・議会基本条例の制定、議会改革などを考慮したい。
⑤ 地方分権改革は、明確な目標があるわけではない。どこに向かうかを議論すべき時期である。
(1) 「最近になって、わが国でも『地方政府論』という提唱がおこなわれ(井出嘉憲『地方自治の政治学』1972年)、革新自治体などでこの概念が用いられるようになりましたが、未だその具体的な構造や機能についての検討はされず、人々の間に十分なじんでいるとはいえない実状です。今後中央政府との関係で、考慮されてよい問題のひとつとおもいます」(辻 1976:124)という指摘が今から40年前にあった。当時、「東京地域の自治政府である都」という表現があった(東京都『広場と青空の東京構想』1971年、23頁)。研究者の間では、政府間関係研究集団(1983年)などはあったが一般には広がってはいない。今日、ようやく国の文書でも、また条例でも活用されるようになっている。地方分権改革推進委員会の第2次勧告のタイトル「『地方政府』の確立に向けた地方の役割と自主性の拡大」(2008年)である。また、自治体を明確に「政府」と規定している自治基本条例(三鷹市)や議会基本条例(田川市、蔵王町、南会津町、豊前市)もある。
(2) 今回は、政府関係として中央政府と地方政府の関係を念頭に置いて議論している。同時に、今日地方政府と地方政府との関係としての政府間関係も重要となっている(自治体間連携・補完)。
(3) こうした視点からの意欲的な研究がある(秋月・南 2016:第1章(南執筆))。日本、イギリス、カナダ、チリ、ドイツ、フランスの中で、日本は「地方分権改革が中央地方間の権力関係の変化に与えた影響が最も小さかった」と結論付けるとともに、その理由を明らかにしている。「中央レベルの地域利益を持つアクターによって行政的分権から財政的分権への分権化の順序が決まった結果、自治体の自由裁量権の大幅拡大に寄与せず、国から地域に財政負担のみが移り、自治体の自由度を高める効果を持たなかった」からだと断言している。
現時点ではこの結論とその理由(財政的分権が後になるというタイムラグがポイント(政治的分権が行われていないこととともに))については、興味深いが留保したい。結論を導く際に、国際比較が困難な権限移譲のデータが用いられていない(財政に代替されている)。また、政治的分権の指標が日本ではすでに制度化されているものであり、変化が生じない指標になっている(この点では、全国画一の制度改革だけではなく、自治体が実践した住民自治の推進を考慮すれば、変化がないとして議論を進めていいかどうか)。今後、地方分権が地方の権力を増加させるという単純な議論の「誤解」を避ける上でも、政府間の権力関係の変化の研究が進むことを期待したい。
ただし、日本の地方分権改革では、少なくとも国の関与は改革され、そのルールが確立したことは、まずもって地方側に権力移動が生じているといえよう。制度的には現行の地方政治制度(二元的代表制、直接請求制度)を大きく変えるものではないが、まずもってすでに民主主義的な制度が確立されていたと考えるべきであるのと同時に、地方分権改革の結果だとは検証しえないものの、地方政治の台頭といわれる事象(住民投票条例、自治・議会基本条例制定の広がり)が着実に根差している。
〔参考文献〕
◇秋月謙吾・南京兌編著(2016)『地方分権の国際比較』慈学社
◇江藤俊昭(1996)「政治的決定構造のメタモルフォーゼ――変動する政治と政治学」山本啓編『政治と行政のポイエーシス』未來社
◇金井利之(2007)『自治制度』東京大学出版会
◇神原勝・辻道雅宣編(2016)『戦後自治の政策・制度事典』公人社
◇新藤宗幸編著(1989)『自治体の政府間関係』学陽書房
◇神野直彦(2001)『「希望の島」への改革――分権型社会をつくる』日本放送出版協会
◇政府間関係研究集団(1983)「新々中央集権と自治体の選択」世界1983年6月号
◇杉原泰雄・大津浩・白藤博行ほか編(2003)『資料 現代地方自治――「充実した地方自治」を求めて――』勁草書房
◇建林正彦・曽我謙悟・待鳥聡史(2008)『比較政治制度論』有斐閣
◇辻清明(1976)『日本の地方自治』岩波新書
◇西尾勝(2007)『地方分権改革』東京大学出版会
◇西尾勝(2013)『自治・分権再考――地方自治を志す人たちへ』ぎょうせい
◇山下茂(2010)『体系比較地方自治』ぎょうせい