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2016.07.25 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その13)

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専業主婦と議会運営

 専業主婦には、子育てや介護の手間から解放され、かつ、夫の理解が得られれば、こうした平日日中の議会運営は、むしろ生活時間に合っているかもしれない。しかし、現実には、こうした専業主婦が議員のなり手となっていないとすれば、議会運営の在り方が「見えない天井」として、専業主婦の進出を阻んでいるわけではなく、別の理由があるのかもしれない。ともあれ、子育てと介護の両方から解放される「自由」な歳月は、人生においては必ずしも長くはない。
 もっといえば、日本社会において、全く時間の自由になっている専業主婦は、それほどはいない。いわゆる「男女雇用機会均等」や「男女共同参画」によって、女性も男性と同じような総合職=企業戦士として仕事をするようになっただけではない。むしろ、女性非正規労働者は多い。そもそも、男性の雇用情勢も悪化したので、経済的に結婚しない人々も多く、専業主婦などは増えない。そもそも、主婦の多くは、長引く不況のせいで、リストラ失業をしないとしても、夫の稼得が足りないので、平日日中もパート労働に出かけなければならない。パートも、好きなときに行けばよいというものではなく、基本的には決まった時間帯に勤務するのである。議会開催中に連続して休むわけにはいかない。つまり、主婦パートとは、現在の議会運営は適合していない。
 本来は、子育てや介護をしながらも、他の活動が可能になるという、広い意味での「ワーク・ライフ・バランス」の問題でなければならない。平日日中であるとしても、急な呼び出しによる欠席などに柔軟に対応できる仕事の仕方がなければならない。あるいは、託児・託老施設が併設されるとか、子どもを仕事場に連れてこられるような職場の在り方とか、根本的な変容が求められているのである。逆にいえば、「ワーク・ライフ・バランス」という仕事の仕方を変えずに、議会運営の時間帯を変えることで、多様な担い手を得られると考えるのは、あまりに小手先の発想であろう。

勤労者と議会運営

 既存の議会運営において、議員として勤労者が想定されていないことは、容易に想像できるであろう。普通のサラリーマンは、平日の日中は毎日、朝から晩まで長時間勤務をしている。年次有給休暇をとることは不可能ではない。しかし、例えば、予算を審議する会期が比較的長めの定例会である「3月議会」などに出ていたら、年次有給休暇がすべてなくなってしまう。また、世間の「長期」休暇は、年末年始とゴールデンウィークとお盆休み程度である。仮にサラリーマンに合わせて日中に議会運営を行うとすれば、この時期にまとめて定例会を開催しなければならない。当然、祝日休日開催は不可避である。逆にいえば、現在の4定例会制は、サラリーマンのなり手を想定していないのである。
 この問題は、すでに審議会の運営方法で問題になっている。従来型の審議会は、平日の日中に開催される。となると、審議会委員になるのは、議員、年金生活者などの高齢者、行政職員、自営業者を中心とする各種団体、あるいは、それ自体が仕事の一環である経済団体・業界団体・利益団体のメンバー、比較的に時間の自由になる専門職や学者、ということになる。理屈上は、専業主婦はNPO・市民団体関係者、あるいは「公募住民」のような形で参画することは、可能である。ともあれ、会社員などの勤労者は審議会委員になることは困難である。
 そこで、サラリーマン層、つまり中高年の男性(及び女性勤労者)を審議会委員として委嘱する場合には、会議開催は必然的に平日夜間又は休日ということになる。審議会の場合には、誰を委員に委嘱するかは、基本的に行政側の差配である。サラリーマンの声を聴きたいと思えば、平日夜間又は休日開催にならざるを得ない。とはいえ、審議会事務局の行政職員や他の審議会委員の「ワーク・ライフ・バランス」もあるから、休日開催は好まれない。また、審議会は1回1時間ないし3時間程度であるから、休日を丸々潰すほどの価値もない。こうなると、必然的に平日夜間開催となる。基礎的自治体では、こうした平日夜間開催の審議会はかなり増えている(2)
 平日夜間・休日という議会運営が考えられるのは、こうした基礎的自治体の審議会運営が先例となっていよう。ただし、審議会と議会とは開催総時間が異なる。審議会は長くても1回3時間程度で、多くて月1~2回程度という運営頻度ですむことが多い。しかし、ある程度の時間を確保しようと思えば、夜間開催の場合には、相当の頻度で開催しなければならない。週1回開催で1回3時間とすると、年間で150時間程度の審議時間を確保できる。これを、1日6時間(10時から12時、13時から17時)とすると、総会期日数は25日間分である。週2回夜間開催だと、総会期日数は50日分ということになる。
 例えば、東京都議会の2015年は、第一定例会(2月議会)=38日間、第二定例会(6月議会)=16日間、第三定例会(9月議会)=21日間、第四定例会(12月議会)=16日間である(3)。単純合計すると、大相撲と同じく90日程度を開催している勘定になるが、実際には、土日も含んで会期日数をサバ読みしているのであって、実働は70日程度である。その意味では、夜間議会でも、週2回の定例開催であれば、やろうと思えば、何とか審議時間を確保することはできるかもしれない。

【つづく】


(1) 『報告書』そのものに忠実に表現すると、「Ⅳ」とローマ数字が裸で記載されており、「第Ⅳ章」という表記ではない。しかし、本稿では、単に「Ⅰ」「Ⅱ」……では分かりにくいので、章立てとみなして、「第Ⅰ章」「第Ⅱ章」……と表記する。その下位項目は「1」「2」……であるが、「第1節」「第2節」と表記する。さらに、その下位項目は、(1)①となっている。
(2) もっとも、主婦層にはこの時間帯は非常に不評である。平日日中は家事から解放されるが、平日夜間に家事のできない夫や子どもが帰ってくるからである。
(3) http://www.gikai.metro.tokyo.jp/outline/archive.html

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