2016.06.27 議会改革
第2回 地方自治の特徴――二元的代表制と二層制――
3 もう一歩:画一的な地方自治体――地方政治の磁場――
憲法上の地方自治の規定を確認する。憲法に「地方自治」の章が挿入されるのは、世界的に見て、今日では当たり前のものになっているが、1946年制定当時は珍しいものといわれていた。日本では、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という三大原理を保障するためには、議会制民主主義と地方自治を組み込まなければならないからである。ちなみに、権力集中は独裁や腐敗を招きやすいことから権力分立が主張されるが、三権分立(立法、行政、司法)だけではなく、政党政治とともに地方自治が必要である。自由主義に基づいた制度化である。
【日本国憲法】
第8章 地方自治(LOCAL SELF-GOVERNMENT)
第92条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
第93条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
2 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
第94条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
第95条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
憲法上の地方自治に関する規定は、たった4条ではあるが、原理、地方政府形態(自治体の基本構造)、自治体の権限、国政との関係(地方自治の保障)について規定されている。
① 地方自治の原理は、地方自治の本旨と規定される。その内容は、憲法上規定はないが、一般には、住民自治と団体自治と理解される。前者は、当該地域の決定が住民自身によること、後者は、国とは別の団体としての権限が保障されていること(一般に説明される「国から独立して」は言い過ぎ)、である。なお、地方公共団体の組織や運営は地方自治の本旨に即して法律(自治法等)で定める(その本旨に反する法律等は制定できない)。
② 地方政府形態(自治体の基本構造)は、議会とともに首長を住民(有権者)が直接選挙する二元制である。地方自治の本旨の文脈でいえば、住民自治の規定である。なお、本連載で強調するように、二元制を二元代表制=機関競争主義として理解し、単に選挙の要素だけではなく、両者の政策競争、住民参加・協働の推進とともに理解する。
③ 自治体の権限として、自主立法権(条例制定権)、自主行政権、自主財政権を有している。地方自治の本旨の文脈でいえば、団体自治の規定である。なお、憲法65条では、「行政権は、内閣に属する」となっているが、例外規定の1つである。
④ そして国政との関係では、自治体にかかわる法律を制定する場合、国会を通過させるだけではなく、その自治体の有権者による住民投票で過半数を得なければならない(特別法の住民投票)。すでに指摘しているように、重要な決定は、当該自治体の議会でも首長でもなく、住民自身がかかわる必要があることに注意していただきたい。なお、憲法41条では、「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である」となっているが、例外規定の1つである(「法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる」(憲法59①)がある)。
☆キーワード☆
【制度的保障説】
自治体と、中央政府としての国との関係についての学説の1つである。通説といわれているものである。従来、これを含めて3つの説がある。1つは、固有説であり、基本的人権と同様に、地方自治は固有なものとしての前国家的な権利であるという考え方である。もう1つは、伝来説であり、近代国家以降は国家の統治権は統合され、自治体の自治権は、国家の統治権からの派生として捉えられる。その典型的な考え方は、法律の制定改廃によって自治権の範囲は決まるというものである。そして、3つ目は、伝来説の一種として成立した制度的保障説である(カール・シュミット)。自治体の自治権は憲法によって保障されたものであるというものである。この説は、一方で前国家的な固有説を否定するが、他方で地方自治の本質的内容を法律によって否定することはできない、というものである。
固有説と伝来説を両極にして、その中間に制度的保障説が位置しているといえる。その後、新固有説、人民主権原理に基づく説、憲法的総合判断を強調する説など展開があるが、それらには親和性があるか、あるいは実際上の結論が一致しないわけではない(小林・渡名喜 2007:122)。まずは、自治体と国との関係は制度的保障説に基づいていると理解しておこう。