2016.06.10 政策研究
【フォーカス!】現職有利
国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。
現職有利
知事選では、現職が有利とよく言われる。それは、都道府県政の運営で「成果を上げているから」というポジティブな理由だけではなく、「議会がオール与党で対抗馬を出しにくい」「中央政界の対立を持ち込みたくない」といった地方の事情もあるだろう。
だが、それだけではない。メディアの果たしている役割も大きい。ある地方紙の記者にこう言われたことがある。「どれだけ紙面で県政の課題、問題点を連載しても、やっぱり、テレビには勝てないですね」
選挙が近づくと新聞ではよく、「県政、2期目の検証」などと銘打って追及する紙面をつくる。政権をチェックする報道機関としては、地方の大統領である知事に厳しく対峙するのは当然のことだ。
だが、テレビには負けるという。どういうことか。NHKも含めて地元のテレビ局にとっても、知事はニュース対象としては大きな存在だ。知事が「何をした」「どこを訪問した」「どう発言した」などのニュースは、知事が動いている限りは欠かすことはできない。
こういった報道は、内容や時間の制約から批判的にすることもない。淡々と報道していたとしても、視聴者には「精力的にやっているな」と映る。毎日とまでは言わないが、ローカルニュースで知事の動向を見ることが続けば、「頑張っている」と刷り込まれることになるわけだ。
むろん、舛添要一東京都知事のように、政治資金の私的流用疑惑が批判され、連日、ニュースやワイドショーに取り上げられるようになれば別だ。新聞だけでなく、テレビで厳しくたたかれると、次の選挙はかなり厳しくなるのは当然だろう。
これを国政に置き換えるとどうか。知事とは、安倍晋三首相である。安倍首相はほぼ毎日、テレビでのぶら下がりの取材に応じる。土日となると、各地の視察に出て、その動向が映像でお茶の間に届く。
最近では、G7伊勢志摩サミットの議長役、オバマ大統領と一緒に広島を訪れるといった外交でも点数を稼いでいる。6月1日の記者会見では、消費税の増税を2年半延期することについて、世界経済のリスクに備えた「新しい判断」を理由にするという“荒業”で乗り切ったようにも映る。
安倍首相の動向をテレビや新聞が追いかけている限りは、知事の現職有利というのと同じメカニズムが働くことになる。
6月22日公示、7月10日投開票で参院選がスタートする。2012年12月に始まった第2次安倍政権の看板政策であるアベノミクスの評価だけではなく、憲法違反とも指摘される集団的自衛権の行使容認の是非、憲法改正といった国の在り方が問われている選挙となる。
メディアが安倍政権の動向を追うだけでは、現職知事を応援することと同じになる。政権の成果、課題を幅広く取り上げ、有権者に十分な判断材料を提供する分厚い報道を期待したい。