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2016.05.25 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その11)

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議員報酬等

 常識的な労働市場を想定すれば、なり手が少ないのは、労働の精神的・肉体的・時間的などの負担に比して、経済的報酬や名誉欲・権力欲の満足などの精神的報酬などの反対給付が少ないことが考えられる。名誉欲・権力欲などは具体的に議論することは難しい上に、なり手を増やすための手段として打ち出すことも難しい。そこで、『報告書』が「① 議員報酬等」を論じることは、充分に理解できることである。
 2013年度の平均報酬月額は、都道府県79万1,000円、指定都市76万6,000円、その他市40万2,000円、特別区60万7,000円、町村21万円となっている。この金額が高いか低いかは個人の価値観などに左右されようが、住民の中で「高い」と思う人が多ければ立候補者数はもっと増えるであろう。逆に、「低い」と思う人が多ければ立候補者数は増えないであろう。実際には、立候補者数が減っているということは、多くの住民・国民は総合的に判断して、報酬は「低い」と考えていることになろう。
 特に、21万円の町村議員は、兼業議員が約8割を占めているのであって、議員報酬だけで生活することは想定されていない。逆にいえば、「意欲ある若者が専業議員として参画できない」という指摘があると『報告書』は分析している。もっとも、町村議員は、時間的には専業議員ほどの業務がないのであれば、「意欲ある若者」は、他の非正規雇用と「二足のわらじ」を履けばよいだけかもしれない。
 また、町村議会では政務活動費が交付されないことが多いことも、『報告書』では指摘されている。つまり、単に月額報酬で比較するのは実態を見誤ることがあるということである。というのは、政務活動費がなければ、政務活動に必要な費用も、議員報酬あるいは他の副業収入(もしくは本業収入)で賄うしかない。そうなると、町村議員の実質の月額報酬は、もっと低いのかもしれない。名目の報酬ではなく、必要経費を差し引いた可処分報酬で比べる必要があるということである。あるいは、議員報酬と政務活動費を合算した「総額主義」で比較しないとならないのかもしれない。
 もっとも、世間一般では、議員報酬の引上げにせよ、あるいは政務活動費の引上げにせよ、あるいは「総額主義」に基づいた両者の合計額の引上げにせよ、世間の理解を得るのは簡単な情勢ではないだろう。したがって、『報告書』は、「検討することも重要ではないかとする意見があった」という、極めて投げやりな記述になっている。ただ、事実として、立候補者数が減っている以上、議員(特に町村議員)は魅力的ではないという見方が、労働市場において広がっていることは、否定できないだろう。

議員報酬以外の魅力

 経済的な反対給付の引上げが見込めないとすれば、他の方策を検討するしかない。
 第1は、名誉・名声・地位など社会的承認である。実際、戦前以来の「名誉職」とは、実際に名誉があるかどうかはともかく、名誉があるはずだから経済的報酬がなくてもよい、つまり、無給職を意味していた。歴史的には、名誉職とは、不名誉職や賤(せん)業職の反対語ではなく、有給職の反対語である。
 しかし、いくら国や為政者や法制が「名誉」を付与したとしても、地域社会や住民・国民が、議員に対して社会的承認を与えるかどうかは、未知数である。そして、今日の実際の住民世論では、議員不信は根強く、プラスの社会的承認どころではなく、実態は不名誉職や賤業職というマイナスの評価である。議員の社会的地位を向上すれば、経済的報酬を増やさなくても、議員になりたいと思う人は増えるかもしれない。しかし、むしろ現実には、議員の社会的承認が低下し、それによってなり手不足が加速化しているようである。
 第2は、議員の権力の拡大である。議員の権力が拡大されれば、経済的報酬や社会的名声がなくとも、権力欲のある人間は、今以上に議員になろうとするであろう。もっとも、ただでさえ権力追求者だと思われている議員が、ますます権力亡者の集団となれば、議員のなり手が増えたとしても、欲望という点から見た住民構成との偏りは大きくなるばかりである。
 また、実際に権力を求めるのであれば、通常は、議員ではなく首長を目指す。首長は、独任制執行機関として、自治体内で圧倒的な権力を持っている。議員全員が束になっても、首長一人にかなわない。したがって、議会改革によって議会の機能と役割と権力を高め、議員職の権力的な魅力を高めることは、議員のなり手を多少は増やすかもしれないが、劇的な効果は生じないだろう。
 こうしてみれば、経済的報酬を引き上げることも難しいが、他の方策を考えることも容易ではないのである。


(1) 『報告書』そのものに忠実に表現すると、「Ⅳ」とローマ数字が裸で記載されており、「第Ⅳ章」という表記ではない。しかし、本稿では、単に「Ⅰ」「Ⅱ」……では分かりにくいので、章立てとみなして、「第Ⅰ章」「第Ⅱ章」……と表記する。その下位項目は「1」「2」……であるが、「第1節」「第2節」と表記する。さらに、その下位項目は、(1)①となっている。

 

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