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2016.05.25 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その11)

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之

はじめに

 これまで10回にわたり、総務省に設置された「地方議会に関する研究会」の最終報告書である『地方議会に関する研究会報告書』(以下『報告書』という)を検討してきた。前回から、「第Ⅳ章(1) 多様な層の幅広い住民が議員として地方議会に参画するための方策」の検討を始めた。前回は「第1節 地方議会の議員の構成の多様性の確保 (1)現状の地方議会の議員の構成」までの検討をした。今回も引き続き『報告書』に沿って、論じていこう。

議員の多様性確保の意義

 「第1節 (2)議員の多様性確保の意義」という表題でありながら、『報告書』は「議員構成が偏っていること」を論じている。論理的には、「多様性確保」と「議員構成の偏り」との関係は、必ずしも明確ではない。住民構成が多様であるときに、議員構成も同じように多様であるならば、議員構成に偏りはないかもしれない。しかし、議員構成の多様性を確保したとしても、必ずしも住民構成と同じような近似性を持たないこともありうる。前回にも触れたように、議員にLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の人が加われば、加わっていないよりは、議員の多様性は確保される。しかし、LGBTの議員がいたとしても、議員構成におけるLGBTの比率が、住民構成におけるLGBTの比率を鑑みて、偏っていないとは必ずしもいえないのである。
 ともあれ、『報告書』では、まずは議員構成の偏りの問題を指摘する。具体的には、
 ① 性別や年齢層など自らの属性とは異なると考える住民が立候補しにくく、議員のなり手不足の一因となっている
 ② 住民の属性と異なることにより議員との距離感が広がり、地方議会に対する関心の低下、意思決定に対する納得感の低下につながる
と指摘している。つまり、『報告書』の関心事項は、①議員のなり手確保、②議会と住民との関係構築、という2点に集約される。ただし、『報告書』の「第2節」では、議員のなり手確保を中心に据えることになる。
 おそらく『報告書』は、すぐに議員構成の偏りを是正し、住民構成と近似するようにすることは、現実的に困難であると判断しているのであろう。そこで、現状の著しい偏りと、偏りのない状態との中間に、現実的な中間目標として、現状よりは多様性を確保する、ということを掲げたものと思われる。

議員のなり手不足

 『報告書』「第2節 勤労者等の立候補を促進するための制度環境の整備 (1)議員のなり手確保」では、無投票当選の割合が増えていることを指摘している。しかも、平成の大合併の進展により、1998年に6万3,000人いた地方議員は、2013年には3万4,000人に半減している。町村議会議員数が激減したからである。しかし、議員数が激減しているにもかかわらず、無投票当選が増えているとすれば、それ以上に立候補者数が減っていることを意味する。つまり、議員になろうという意思を持って行動する人間が減少しているということなのである。
 立候補者数が減っている原因については、上記の分析では、「性別や年齢層など自らの属性とは異なると考える住民が立候補しにく」いということである。つまり、〈男性、中高年、自営業者・年金生活者〉という議員構成の現状の偏りが、それ以外の住民に、つまり〈女性・若者・被用者〉に対して、立候補しても当選する見込みはない、という予断を与えるということであろう。当選の見込みが低ければ立候補する行動に移す人は少ないだろう。現実の選挙は、制度的には公平・公正・平等なはずであるにもかかわらず、実際としては〈男性、中高年、自営業者・年金生活者〉に「有利」という結果が出ている以上、それを前提に人々は行動するであろうからである。
 もっとも、この因果関係は、本当に存在するのかは分からない。〈男性、中高年、自営業者・年金生活者〉の比率が多いという情報を前提に、〈男性、中高年、自営業者・年金生活者〉の立候補の比率も多ければ、当然ながら、〈男性、中高年、自営業者・年金生活者〉と〈女性、若者、被用者〉とが同じ当選確率であっても、議員構成は前者が多くなる。そして、それを前提に立候補者の比率が決まれば、永遠に〈男性、中高年、自営業者・年金生活者〉が多い、ということになるだろう。こうすると、〈女性、若者、被用者〉から議員になろうと行動する人は限られ、結果的には総数として議員のなり手不足になるというわけである。
 とはいえ、この推論は、〈女性、若者、被用者〉が今以上に立候補するようになれば、なり手不足は解消されるということだが、その前提は、〈男性、中高年、自営業者・年金生活者〉が、今までと同じように立候補し続けることである。しかし、〈女性、若者、被用者〉が多く立候補するようになれば、反射的に〈男性、中高年、自営業者・年金生活者〉の当選確率は下がるであろう。そうなれば、〈男性、中高年、自営業者・年金生活者〉の立候補者数は減るであろう。結果的には、なり手不足が解消されるかどうかは分からない。

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