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2016.05.10 政策研究

海底遺跡の謎は解明されるか

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元日本経済新聞論説委員 井上繁

 取材に備えて前泊した旅館は、焼内(やけうち)湾に面していた。ここは奄美大島本島西南端の鹿児島県宇検村。部屋のすぐ下は海。まっ暗闇の中で、対岸の灯がうっすらと見える。この湾の入り口付近にまだ未解明の遺物がどのくらい眠っているのだろうか。初めて訪れた土地で、沖縄と薩摩半島との中間に位置する奄美の歴史に思いを巡らせた。
 東シナ海に臨む焼内湾口の枝手久(えだてく)島北側の倉木崎周辺の枝手久海峡で海底に散らばる陶磁器が見つかったのは1994年のことだった。海峡は、長さ約2キロメートル、幅250~600メートルと狭く、水深は3メートル程度である。当時、鹿児島県笠利町(現奄美市)歴史民俗資料館に勤務していた川口和幸氏が、釣りの途中、海中から青磁の小皿を拾い、同資料館学芸員の中山清美氏に報告したのがきっかけだった。中山氏は1994年8月31日に、奄美ダイビングクラブのメンバーと一緒に海底での現地調査を行い、遺物の状況を写真やビデオに収めた。
 これを受けて、宇検村教育委員会は、1995年6月22日から6日間、予備調査として、田村晃一青山学院大学教授(当時)らに依頼して遺跡の確認調査を実施した。その結果、水深2~3メートルの海底に青磁や白磁が広く散乱していることが分かり、倉木崎海底遺跡と呼ぶことにした。村教委は、文化庁や鹿児島県と協議し、重要遺跡確認調査を行った。調査は村教委が主体となり、青山学院大学の協力で3次にわたって実施した。第1次調査は1996年7月24日から10日間、第2次調査は1997年7月11日から18日間、第3次調査は1998年7月11日から17日間だった。予備調査を含め4年間の調査で陶磁器の破片2,300余点を発掘した。
 その頃、水中考古学の調査は、国内では実例がわずかで、鹿児島県内では初めてだったため、独自の方法で実施した。具体的には、陸地からの測量によって、海底にロープで一辺が20メートルの升目を設け、升目ごとにスタッフが遺物の確認と正確な位置の測量、写真撮影などを行った上で、遺物を発掘した。升目の数は、徐々に増やしていき、遺物の広がりは長さ900メートル、幅200メートルに及んでいることが明らかになった。
 発掘した遺物の内訳は、青磁1,383点、白磁189点、青白磁20点、黒釉天目碗1点、黄釉陶器14点、褐釉陶器716点などである。青磁では、龍泉窯(浙江省)系の碗が圧倒的に多い。ほかに、景徳鎮(江西省)窯系、建(福建省)窯系、同安(福建省)窯系などもあった。1998年の調査では、茶の湯茶碗の一種である天目碗片も発見された。天目は黒や柿色の鉄質釉のかかった碗で、中国・浙江省の天目山の寺院で常用されていた。
 倉木崎海底遺跡発掘調査報告書(1999年)では、これらは12世紀前半から13世紀にかけての中国の南宋時代のものと推定している。引き上げた遺物は村教委が保管し、主なものは同村生涯学習センター「元気の出る館」の歴史民俗資料展示室で公開している。
 約800年前に中国で製造された陶磁器の発見は、この地が古来、中国の交易船が往来する要衝であったことを示していると関係者はみている。発見した遺物については、貿易船が座礁して沈没したか、船の積み荷を投棄したか、の2つの見方がある。貿易船が座礁した場合、村教委を中心とする1998年までの調査では発掘現場から船体の一部などそれを裏付ける物的な証拠が見つかっていない。積み荷の投棄説の場合、なぜ投棄する必要があったのか、その理由が不明である。こうした謎を解明するため、2014年に九州国立博物館が米国製の水中無人磁気探査機などを用いて、大がかりな海洋磁気探査を実施した。その後の精査で、江戸時代の鉄製のいかりが発見されたものの、肝心の沈没船やその一部、船釘などは見つからなかったことを関係者が2015年に明らかにした。船体はさらに深いところに沈んでいて、その上に土砂が堆積している可能性もある。
 倉木崎海底遺跡以外にも全国には全容が明らかになっていない海底遺跡がかなりある。海は陸上と違ってこれまで開発の機会が乏しかったため、海底遺跡が見つかっても発掘していないことが少なくない。サンゴなど貴重な海底の自然を破壊せずに、どう発掘、調査を進め、事実の解明につなげていくかという課題もある。その発掘や調査には、膨大な費用がかかる。人口が2,000人に満たない村がそのための予算を捻出するのは困難だ。海洋遺跡の謎が解明されるのはいつのことだろうか。

海底からの出土品の一部は、宇検村生涯学習センター「元気の出る館」内の歴史民俗資料展示室で公開海底からの出土品の一部は、宇検村生涯学習センター「元気の出る館」内の歴史民俗資料展示室で公開

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