2016.04.25 議会改革
名古屋市議会――議員報酬の扱いをめぐる対立
河村市長とのあつれきと特例条例の制定
河村たかし氏は、2009年4月26日に名古屋市長に初当選した。彼の公約は、1,500万円だった名古屋市長の年収を800万円に下げる、退職金を廃止するというものであった。「名古屋市民の平均的な60(市長の年齢)のじいさまの給料と同じでやる」、「会社に勤めて4年で退職金くれと言ったらどうなると思う? たわけかと言われとるよ」と語っていた。名古屋市でも市長の給与は外部の有識者等で構成される審議会の答申を得て条例で決めていた。「特別職に属する職員の給与に関する条例」では、市長の給料は月額146.7万円、退職手当の支給率は100分の60であった。河村市長は公約を守るとし、「市長の給与の特例に関する条例」(2009年7月14日制定、2013年4月1日施行)によって、市長の給料月額を50万円とし、6月及び12月に支給する市長の期末手当の額をそれぞれ100万円とし、地域手当も退職手当も支給しないとした。選挙公約の優先である。
2010年11月、市長自らが主導した市議会リコールの署名数が法定数を下回ったため、名古屋市長を引責辞任し、出直しのために再出馬し、2011年2月6日、市長に再選された。その後、同年3月13日に行われた市議会議員選挙では、市民税減税と市議会定数半減を掲げて河村市長が結成した地域政党「減税日本」がどこまで議席を伸ばすか注目された。改選議席数は75。選挙の結果は、「減税日本」が、市議会過半数には及ばなかったが、第1党となった。他の既成政党は軒並み議席を減らし、特に選挙前における議会第1党であった民主党は議席を10議席以上も減らして第4党に転落した。議席数は、減税日本28、自民19、公明12、民主11、共産5となった。これを受けて、減税日本提案の条例案と自民・民主党提案の条例案が提出されたが、審議の末、両案とも撤回し、改めて減税日本・自民・公明・民主・共産の全会派が、特例として「議員報酬月額を50万円とし、6月と12月の期末手当をそれぞれ100万円とする」議員提案を行い可決している。なお、特例による減額期間を「当分の間」としたのは「民意による成案を得るため」とされた。報酬年額は市長と同額である。
河村氏は2013年4月21日に市長3選を果たした。その年の9月定例市議会に、市長給与と市議報酬を2014年度から恒久的に年間800万円とする条例案を提出した。河村氏は提案理由説明で「市長や議員が高収入の仕事なら、政治信念よりも家業として長く続けることを優先させてしまい、政治不信につながる」と述べた。市長選での勝利を踏まえ「市民は、明確に市民並み給与とすることを選択した」と強調した。しかし、名古屋市議会は市長・市議報酬「800万円恒久化」案を否決した。市長に関しては、「市長等の給与の特例に関する条例」(2013年7月4日制定、2015年4月1日施行)によって、給料月額は50万円、6月及び12月に支給する市長の期末手当の額はそれぞれ100万円、退職手当は支給しないとなっている。
2015年市議会議員選挙――減税日本の激減
ところが、2015年4月に行われた市議会議員選挙の結果は、自民22、民主16、公明12、減税日本12、共産12、名古屋維新の会1となった。勢力分布は一変した。減税日本の激減と共産の躍進が目立った。報酬見直しを掲げていた自民公3会派が計50議席を占めた。「民意による成案を得るため」減額期間を「当分の間」とした理由は3会派の圧勝で解消されたと考えられたのであろう。3会派は、議員定数を75から7減の68にする一方、ほぼ半減されている報酬を引き上げるため、本則の報酬に比べて15%減とする案をとりまとめた。
2016年3月8日の市議会本会議において、議員の報酬年額(議員報酬+期末手当)を800万円から655万円増額して1,455万円にする条例案が賛成多数で可決された。制度値とされる議員報酬月額99万円の場合は、報酬年額は84.15万円×12=1,009.8万円、期末手当は445万円、合計1,454.8万円になる。増額に反対する河村市長が「再議」に付しても、条例案を提出した自民公3会派が議席の3分の2を占めており、再可決されるのは確実な情勢となっている。