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2016.04.25 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その10)

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尺度の選択

 したがって、尺度は論理的には無限にあり得るが、焦点を絞ることが重要である。例えば、住民構成における「禿頭(とくとう)」と「そうでない人」の比率が、議員構成でどうなっているかは、普通は問題にされない。要は、そのような特徴はどうでもよい、むしろ、触れてはいけないと考えられている。また、体重別にも構成の偏りについて問題にされることはない。柔道やボクシングでは体重別階級制は極めて重要であるが、議員ではそうは考えられていない。このようにいろいろ言っていくと冗談(又は不礼)になっていくように聞こえるかもしれない。
 では、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)や障碍(しょうがい)となるとどうであろうか。LGBTに関しては、まずは男女という2カテゴリーでさえ乖離が大きい中で、LGBTまで住民構成との近似を求めると、戦線が拡大して、議論が拡散してしまうであろう。現段階では、住民構成との乖離ではなく、少なくとも、LGBTをカミングアウトできる議員が登場できるかどうかが、実践的に重要な問題となっている(2)
 障碍に関しては、極めて多種多様なものがあるため、限られた議員数の中で、住民構成と議員構成の乖離を検討することにはなっていない。ここでも、むしろ障碍を持っている議員が、比率はともかくとして、登場できるかどうかが重要なポイントとなっている(3)。ただ、LGBTの場合よりも、障碍を持った議員の方が、広く登場してきたとはいえる(4)。また、LGBTの場合には、事実としてLGBTの議員がいたとしても、それをカミングアウトしているかどうかが、大きな分かれ目となっている。
 これ以外にも、様々な尺度が考えられる。例えば、格差社会を前提にすれば、所得階層・資産階層が議員構成と住民構成で乖離していれば、議員は住民の生活を実感できない可能性もある。ただ、議員という職業自体が特定の所得を可能にするので、議員になったこと自体が所得階層を変えてしまう。その意味では、議員になるまでの所得階層が大事になるかもしれない。しかし、そうなると、若い頃から政治の道を職業として選んでいる人は、そもそも住民のいかなる所得階層も代表しないことになってしまう。
 また、格差社会・貧困と密接に関連しているのが、世帯構成である。特に、シングルマザーは極めて高い確率で貧困層でもある。そうでなくとも、現在の状態として子育て世帯とそうでない世帯、あるいは、子育てを経験した人とそうでない人、あるいは、生物学的又は戸籍的に父親であっても実際には子育てをしていない人と実際に子育て責任を果たしてきた人など、様々な差異があり得る。そして、このような暗黙の自己の経験が、政策判断に影響しているかもしれない。例えば、生物学的又は戸籍的には父親であっても何も責任を果たしてこなかった中高年男性議員は、子育て問題を実感できないかもしれない。逆に、苦労して子育てをしてきた中高年女性議員は、「姑(しゅうとめ)根性」を発揮して若い世代の「甘え」にかえって厳しいかもしれない。
 このように考えていくと、いかなる尺度を重点的に選択し、その尺度でのゆがみから世論喚起をしていくのか、というのは、重要な戦略判断となろう。

現状への弁明は可能か?(1)―許容範囲―

 しかし、性別・年齢別で住民構成と議員構成に客観的な乖離があるとしても、それ自体が直ちに問題であるかというと、簡単な問題ではない。『報告書』によれば、第1に、「どの程度の乖離までを許容範囲と考えるか」という論点が指摘されている。すなわち、完全な意味での男女比・年齢比までを求めるのか、ということである。例えば、男女比が50%ずつだとしても、議員比は50%ずつである必要はなく、最低30%くらいが確保されれば充分だという見解があり得るだろう。しばしば、男女共同参画協働社会の数値目標は、この30%である。ちなみに、地方議会は、都道府県、指定都市、市、区、町村という類型別では、いずれも30%には達していないので、30%という控えめな目標でも、現状の政治の実態からすると実現することは容易ではなさそうである。

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