2016.03.25 政策研究
イチからわかる! 予算編成と決算分析(下)
(2)財政健全化法の改正
■財政健全化法の指標の問題
平成19年6月22日「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)が公布され、健全化判断比率及び資金不足比率の公表に関する規定は平成20年4月1日から施行されました。財政健全化法においては、地方公共団体(都道府県、市町村及び特別区)の財政状況を客観的に表し、財政の早期健全化や再生の必要性を判断するためのものとして、次の4つの財政指標、すなわち、①実質赤字比率、②連結実質赤字比率(全会計の実質赤字等の標準財政規模に対する比率)、③実質公債費比率、④将来負担比率(公営企業、出資法人等を含めた普通会計の実質的負債の標準財政規模に対する比率)を「健全化判断比率」として定めていますが、法の施行直後より、この基準では財政状況の悪化などについて十分に把握することはできないと、多々指摘されてきました。
■「地方財政の健全化及び地方債制度の見直しに関する研究会」報告書の概要
このような指摘を踏まえ、財政健全化法の施行後、「地方財政の健全化及び地方債制度の見直しに関する研究会」が開催され、平成27年12月『報告書』が提出されました。報告書では、「健全化法については、全面施行から本研究会の立ち上げまでに5年が経過し、現行制度では必ずしも対応しきれていない財政負担の把握等の課題が指摘されている」とし、「各地方公共団体において、自らの財政状況を適確に把握し、継続的に財政健全化の取組を進められるよう、財政分析手法についても新たな観点からの検討が必要となっている」と認識が示されています。
また、「地方財政の健全化には一定の進展が見られる。一方、同法を運用する中で、必ずしも現行制度では捉え切れていない財政運営上の課題があり、その対応について検討することが求められている。すなわち、
① 一般会計から第三セクター等に対して反復かつ継続的に行われている短期貸付が、健全化判断比率上、捕捉されていないこと
② 基金から一般会計等への年度を越えた繰替運用が、資金の不足として認識されないこと
③ 公有地信託に係る損失リスクが、健全化判断比率上、捕捉されていないこと
について、地方公共団体の実質的な財政負担の状況を十分に表していないのではないか、との指摘がなされている」とされています。
報告書は、大要次のような項目が整理されています。詳細については、報告書を参照してください。
■健全化法の課題への対応
① 第三セクター等に対する短期貸付に係る見直し
a)反復かつ継続的に行われ、かつ返済が出納整理期間に行われているもの、b)反復かつ継続的に行われているもので、a)以外のもの
② 年度を越えた基金の繰替運用に係る見直し
③ 公有地信託に係る見直し
■財政分析の意義
① 健全化判断比率の2つの側面
② 財政分析の視点
a)財政指標の総合的な分析、b)財政指標の経年比較、c)財政指標の類似団体比較、d)財政指標の内訳分析
③ 分析結果の公表・活用
a)議会や住民、投資家等への公表、b)財政運営への活用
■財政分析の現状と課題
① 財政分析の現状
② 財政分析の課題
a)公共施設等の老朽化問題への対応、b)実質公債費比率がマイナスの場合等、c)経常収支比率の上昇
■今後の財政分析のあり方
① 地方公会計による指標の追加
a)資産老朽化比率、b)債務償還可能年数、c)その他の指標
② 指標の組合せによる分析
a)将来負担比率と資産老朽化比率の組合せ、b)将来負担比率と実質公債費比率の組合せ
③ 既存指標の分析・活用の促進
a)経常収支比率の分析・活用、b)財政状況資料集等の分析・活用
なお、地方債制度の見直しに関する詳細については、紙幅の関係で省略します。
■財政健全化法の改正の方向
上記の「研究会報告書」を踏まえて、財政健全化法の改正の条文が具体的に草案されるものと推測されます。本稿執筆の平成28年2月20日現在の段階では、まだ法改正の具体的な条文が公表されてはいないため、内容について議論できる段階ではありませんが、この研究会で議論された内容、すなわち健全化判断比率の指標の追加、また指標の組合せなどについて、追加される可能性があるといえましょう。
加えて、「地方債制度の見直し」に関する内容についても、法改正の対象となる可能性もあるといえます。