2016.01.25 議会改革
『地方議会に関する研究会報告書』について(その7)
位置付け・役割の先送り
しかしながら、『報告書』は、議員を代表として明確に位置付けることに消極的である。第29次地方制度調査会答申が「今後の地方分権の進展や議会機能の充実・強化に伴う議員活動の実態を踏まえ、政治活動と公務との関係、議員の活動についての住民への説明責任のあり方、職責・職務の法制化に伴う法的効果等を勘案しつつ、引き続き検討することが必要である」としたことを引用して、『報告書』としても、最終的に「さらに検討することが必要である」と先送りしている。
自治体議会では、議会基本条例の中には、「県民の代表として県民全体の利益を考え」などの規定があることが、『報告書』でも紹介されている。しかし、「これに対しては議員の代表性の理解との関係性を整理する必要があるのではないかという指摘もある」として、留保をつけたような記述になっている。しかし、『報告書』自体で、すでに「代表性」について整理をしているにもかかわらず、議員の位置付けとして「代表者」であることを規定できないというのは、理解に苦しむ留保である。結局のところ、議員を住民の代表者として法制上は明確化したくない、という結論がアプリオリにあるだけのようである。
というのは、議員の代表としての位置付けは、地方分権の進展度合い、議員活動の実態、政治活動との関係、住民への説明責任のあり方などの事実上の世界とは、基本的には関係がない制度上の世界だからである。位置付けとは、あくまで規範的な世界の問題である。規範的な世界として、代表者は住民に対して責任を負うわけであるが、上記答申で想定されているのは、実際の説明責任を果たす仕掛けのことを意味しているからである。関係のない事柄を持ち出して、結論を先送りにしているのである。
法制化に伴う法的効果は、規範的な世界であり、この点は、法制化する必要・メリットを論じる上では重要になろう。あくまで、理念的な宣言であれば、具体的な法的効果はないといえる。しかし、理念として確認すること自体が重要な法的効果であるということが、明確化の意味であるならば、法制化にはメリットがある。あるいは、議会基本条例など、自治体レベルで法制化は可能であり、補完性の原理に基づいて、地方自治法などの国法による法制化は不要かつ有害という見方もあろう。しかし、自治体レベルでの代表制民主主義を確認することは、全国的に必要かつ有用だという見方もあろう。これらの点について、『報告書』は説得的な議論を展開できてはいないようである。そのために、法制化を否定することもできず、先送りという結論になったのであろう。
議員活動の範囲
ただ、代表としての位置付けにとどまらず、具体的な活動範囲についての議論も、役割の中には入っている。端的にいえば、「議会における審議・討論」以外にも、「政策形成のための調査研究活動」や「住民の意思を把握するための諸活動」など、議員としての仕事の範囲があるという指摘である。しかし、従来の制度イメージは議会内での活動に限られていた嫌いがある。しかし、代表者として、民意を反映して政策につなげるには、議会に来る前の下準備の活動も大事であり、これらの活動は、議員でなければ必要ないのであって、議員活動と一体不可分ではないかという感覚である。
そのような議員活動イメージを受けて、2012年に地方自治法は議員立法で改正され、政務活動の交付対象として、「議員の調査研究」に加えて「その他の活動」が含められるようになった。そのため、「政務調査費」から「政務活動費」となったのである。とはいえ、あくまで「政務」であって、選挙運動などの「政治活動」そのものとは切り分けがされているし、「政務」といっても「公務」の一部という理解のようである。「公務」の中には「事務」と「政務」があるのは、国でも広く理解されているが、あくまで「政務」としての議員活動は「公務」であって、政治活動そのものではない、というわけである。とはいえ、その切り分けは難しい。
しかし、これは、政務調査費ないしは政務活動費という公費対象範囲の問題であり、必ずしも議員の位置付け・役割と直接に連動するというわけではなさそうである。むしろ、金銭支給の問題と位置付け・役割が切り離されて整理して論じ切れないところに、つまり混濁が生じているところに、『報告書』の隘路(あいろ)があるのであろう。
【つづく】
(1) 『報告書』そのものに忠実に表現すると、「Ⅲ」とローマ数字が裸で記載されており、「第Ⅲ章」という表記ではない。しかし、本稿では、単に「Ⅰ」「Ⅱ」……では分かりにくいので、章立てとみなして、「第Ⅰ章」「第Ⅱ章」……と表記する。その下位項目は「1」「2」……であるが、「第1節」「第2節」と表記する。さらに、その下位項目は、(1)①となっている。
(2) 複数制の独任制執行機関である監査委員について、代表監査委員を指定する(地方自治法199条の3第1項以下)。