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2015.12.25 政策研究

第10回 老親の世話は誰がすべきか(国際比較)

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アルファ社会科学株式会社主席研究員 本川裕

家族か行政か、NPOか企業か

 すでに日本は高齢化が進み、老親の世話を誰がすべきかという点については、日々、地域生活での大きな課題となっている。今回は、この点について、今後、日本でどう取り組んでいけばよいかの参考とするため、世界各国ではどういう状況になっているのかについて確認しよう。
 まず、老親の世話を家族がすべきなのか、それとも家族以外の地方自治体などがすべきなのかという考え方についての国際比較調査の結果を図1に掲げ、これをさらに表でランキング表として整理した。

図1 老親の世話は誰がすべきか(国際比較)(2012年)図1 老親の世話は誰がすべきか(国際比較)(2012年)

 高齢者の家事支援を行う主体としては「家族」と「行政」(政府や地方自治体)のいずれかが中心となっているが、家族を中心とした近代以前の社会制度を色濃く残している途上国では「家族」が中心、社会保障が充実した先進国では「行政」が中心となるという傾向が基本的なパターンとなっている。
 「家族」の比率が80%以上で高いのは、同比率の高い順に、フィリピン、中国、ベネズエラ、アルゼンチン、ポーランドといったアジア、ラテンアメリカ、東欧の諸国である。
 逆に「家族」の比率が30%未満と低く、「行政」が60%以上と高いのは、「家族」の比率の低い順に、デンマーク、スウェーデン、アイスランド、ノルウェー、フィンランドと、いずれも北欧の諸国である。

表 ランキング表(37か国中)表 ランキング表(37か国中)

 日本の「家族」の比率は54.5%であり、37か国のうちの20位と世界の中でほぼ中位的な位置にある。
 慈善団体など非営利団体が高齢者の家事支援を行うべきとする比率は、最も高いドイツでも14.3%とそれほど高くはない。ドイツに続いているのはオーストリア、リトアニアなど中欧で多くなっている。主要国の中では米国の比率が7.3%、第6位とかなり高くなっており、ボランティアが盛んな国であることを示している。
 逆に、福祉先進国といわれるスウェーデンでは福祉は行政の仕事と考える気風が強く、非営利団体に高齢者介護を任せるべきだとする割合はむしろ世界最低である。スウェーデン人の考え方によれば、そもそも高い税金を支払って高福祉社会を築いているのは、政府の力で困った人をつくらないためであり、困っている人を慈善活動やボランティア活動で助けるのは本末転倒だということなのである。デンマークなど他の北欧諸国もスウェーデンと同じ理由で非営利団体の割合は低いと考えられる。なお、政府の社会保障機能が弱いフィリピン、ロシアでも同様に非営利団体の割合が低くなっているが、それは北欧諸国の低さとは異なる理由によるものと考えられる。
 日本の特徴としては「民間事業者」の割合が、フランス、デンマークに次いで世界第3位の高さである点が最も目立っており、次に「行政」の割合が30位とかなり低い点にも気がつく。
 フランスで「民間事業者サービス」の割合が21.1%と最も高いのは、高齢者に対する家事援助が、県税を中心とした財源による高齢者自助手当(APA)によって行われ、サービスは原則として認可を受けた事業者又はホームヘルパーから受ける必要があるという制度になっているからである。この場合、配偶者や同居家族等によるサービスは給付対象とならないのである。日本についても介護保険制度により同様の民間サービスが提供され、それが普及していることから同割合が高くなっているのだといえる。
 日本のもうひとつの特徴は、行政への期待は37か国中30位とあまり高くない点である。これはもともと日本人の気持ちの中に行政依存を嫌うところがあることに加えて、世界一の高齢社会となり、現在の財政状況を考えると、高い税金を払ってまで行政体や公務員に頼ろうという気になれないからだと思われる。上述のように民間事業者サービスを組み込んだ介護保険の制度がそれなりに機能しているためでもあろう。
 こうして見てくると、私見では、日本の場合は、家族と行政と民間事業者がそれぞれの役割を果たしながら、互いに他の足りない点を補い合うという連携体制でこれからも進んでいくしかないのではないかと考えられる。日本では時代とともに地域や別居家族との社会の絆(きずな)が全般的に弱まり同居夫婦だけが頼れる存在になってきている状況にあるが、社会の絆の回復には限りがあることを考慮すると、介護に関わる閉塞状態を打破するためには、日本の場合は、案外、有料サービスに心を吹き込む道が最短なのかもしれない。

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