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2015.12.25 政策研究

短命に終わった成果主義の議員報酬

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どうして「普通」が成果報酬ゼロなのか

 5段階評価のうち、半額支給となる「良好」は、一般に、他の評価制度では「普通」である。例えば一般職の自治体職員の人事評価においても5段階(s・a・b・c・d)の個別評語を付与しているが、sは「特に優秀」、aは「優秀」、bが「通常(標準、普通)」、c又はdは「良好でない」である。bの「通常」というのは、当該職位/役職にふさわしい業績を挙げている状態をいう。cは求められている行動が一部しかとられていない、あるいは求められている行動がとられないことがやや多いことを表している。
 このような評語の語感と異なって、五木村議会が採用した「普通」は成果がほとんどないか、極めて乏しく、成果報酬の支給に値しないという意味である。評価評語としては全体に厳しい表現になっており、中間に位置する「良好」は「普通(通常)」でなく、「普通」は最下位となっている。普通は、成果報酬ゼロになるような議員の活動を「普通」とはいわないのではないか。「普通」の評価を下された議員は辞職ものにならないであろうか。それにもかかわらず、「普通」の議員にも定額報酬が支給されるから、評価項目の内容を見れば、「普通」の議員は、定額報酬を支払うだけのどんな議会活動・議員活動をしたのか疑問が起こる。

評価結果の扱いをめぐる混乱

 評価委員は当初、村外の有識者を想定していたが、「村の実情を知らなければ評価が難しい」などの理由から村民に変更、議長が委員5名を任命することにしたといわれる。1年目は、評価委員の氏名は「外部から圧力や働きかけがあるおそれがある」などの理由で公表されなかったし、個別議員の評価結果も「評価する側の負担が大きい。選挙への影響を考慮する必要もある」として議員申合せにより非公開とされていた。実際の支給額から見ると、どうやら10名の議員のうち、中間の「良好」と判定された議員は8名、下から2番目の「やや良好」と判定された議員は2名であった模様であると伝えられた。
 2011年5月に開かれた評価委員会において、元村議や元職員ら村民5名からなる委員の氏名が公表され、会合の一部も初公開された。委員となっていたのは、元村議2名、元役場職員と元郵便局職員が1名ずつで、委員長は、成果主義の発案者で村議員を辞職して評価委員長に就いていた照山哲栄氏であった。
 評価委員会は、2011年度の評価を田山淳士議長に答申したが、答申を受けた議長によると、議員10名のうち「優秀」とされたのは5名、「やや優秀」が1名、「良好」が3名、「やや良好」なし、「普通」が1名であり、「普通」の議員が議長自身であることを明らかにした。議会としての総合評価は「普通」だったという。
 実は、答申前日、委員長の照山氏は田山議長に電話で「あんたは『やや良好』にしておく」と伝え、10分後「態度が悪い」といって「普通」にすると通告してきたという。評価の恣意的な変更である。ところが、評価を受ける議長自身が、9名の議員を独自に評価した資料を作成して評価委員に渡していたことが判明した。評価制度の公正な運用を損なう致命的な事態が起こっていた。
 議員の活動を評価する評価委員は、評価に当たってどのような準備(研修)を行い、どのような具体的な資料・事実に基づいて判断したのか、議会での一般質問や質疑での内容や議会外での地域活動などの評価が評価委員間で偏らないようどのような工夫をしたのか、各議員の自己評価の情報を入手していたのか、評価委員会はどのような審議をしたのか等、評価作業をめぐる疑問は少なくない。また、議員評価では「優秀」が5名いたにもかかわらず、議会全体の評価が「普通」(3段階の最下位)だったのはどうしてなのか、個々の議員の評価と議会全体の評価の関係はどうなっていたのかも判然としない。
 評価をめぐる混乱の中で、評価委員の引き受け手がいなくなった。村議会は全員協議会を開いて協議し、「公正な評価が難しい。評価委員も不在で、なり手がない」などの意見が多く出て、実質的に成果報酬制度を廃止することを決めた。一時、世間から注目を浴びた、議員報酬における成果主義の試みは自滅の形で終わった。
 五木村の場合は、議員報酬自体の一部に成果主義が導入されたが、実は、議員には期末手当が支給されている。一般職の正規職員の場合は、在職期間に応じて支給され期末手当と勤務成績に応じて支給される勤勉手当があるが、この2つを足して通称「ボーナス」と呼んでいる。地方議員に期末手当が支給されている理由は必ずしも明確ではない。議員に対する公費支給全体を考え、必ず支給しなければならない議員報酬本体ではなく、「支給することができる」規定になっている期末手当に客観的で公平な評価結果に基づく成果主義を導入することがあってよいかもしれない。

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