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2015.12.25 政策研究

短命に終わった成果主義の議員報酬

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東京大学名誉教授 大森彌

成果主義の議員報酬条例

 熊本県球磨郡五木村は、「五木の子守唄」の発祥の地で知られ、人口約1,200人(2010年)、山林が総面積の96.2%を占める中山間地である。人口はピーク時の4分の1以下に減少し、高齢化率は40%を超え、水没予定地を抱える川辺川ダム計画に翻弄されていた。2008年9月、熊本県知事が川辺川ダム反対を表明、2009年3月には「熊本県五木村振興基金」が設置され、村は9月に「ふるさと五木村づくり計画」を策定していた。ダム計画の中止方針決定後、村の将来をどう切り開いていくのかが最重要課題となっていた。この課題に対する村議会の対応が議員報酬への成果主義の導入であった。
 2010年3月、「五木村議会議員の議員報酬及び費用弁償等に関する条例」が改正された。条例改正は議員提案で、提案理由は「川辺川ダム計画で村は水没予定地となり、人口が著しく減少し危機的な状況。議員の競争意識を生み、よりよい活動につなげることで村の再建を果たしたい」としていた。
 改正案をめぐって「賛否それぞれの立場で2人ずつ討論」の後、「起立投票の結果、議長を除く9人のうち賛成5、反対4」で「可決」されたという(2010年3月19日付の『西日本新聞』)。全会一致ではなかった。
 改正条例では、「議員報酬は、定額報酬と成果報酬とする」(2条)とし、「成果報酬の額は、議長が任命する5名以内の評価委員が規則で定める基準にしたがって決定した直近の評価が、第2条表中の成果区分欄のいずれに該当するかに応じて、当該成果区分に対応した成果報酬の額欄に定める額とする。2 成果の評価項目及び評価方法については、規則で定める」(5条)と規定した。
 議員報酬は、議長=月額28万4,000円、副議長=月額23万4,000円、議員=月額21万3,000円とすると定められていたが、月額報酬それぞれの8割を定額報酬として月払いとし、残り2割を評価結果で差が出る成果報酬として年度末に一括して支払うという仕組みであった。
 評価項目及び評価方法に関しては条例施行規則によって必要な事項が定められていた。評価項目としては、全ての議員に共通して、若者を増やす政策(所得向上・雇用促進・産業振興等)、新たな発想の五木村再建とダム対策(世論の支援を図る活動等)、新たな企画の活性化(多くの来村者を集客し、熊本県五木村振興基金に合致した企画の提案)という3項目が、加えて、議長については議会での指導力と議会・委員会等の運営の2項目が、副議長については議会での指導補佐と議会・委員会等の運営補佐の2項目が、その他の議員については各種委員会委員長の会議運営の1項目が、それぞれ定められていた。人口減少や産業衰退など厳しい現状、国が補償案を2度も見送った経緯を踏まえ、村再生とダム問題への取組を重視する評価項目となっている。
 評価方法としては、「評価は、それぞれの評価項目を優秀、やや優秀、良好、やや良好、普通の5段階で評価し、議員個人の総合評価として、優秀、やや優秀、良好、やや良好、普通の成果区分を決定する」とし、また「五木村議会としての総合評価として、優秀、良好、普通の成果区分を決定し、議会だよりで公表する」と定めていた。
 実際に評価を行うため、「評価委員会設置要綱」を定め、「五木村議会議員の成果報酬の額を決定するため、五木村議会議員の成果報酬評価委員会を置く。第2条 評価委員会は、議長の諮問に応じ、次に掲げる事項について調査審議し、決定したときは、速やかに議長に答申しなければならない。(1)成果報酬に係る成果区分の決定に関すること。(2)その他議長が特に必要と認めた事項」と規定していた。

5段階評価と成果報酬額

 議員報酬総額は2,666万4,000円、このうち定額報酬総額は2,128万8,000円、成果報酬総額は537万6,000円である。成果の評価は5段階で行われ、「優秀」は全額支給、「やや優秀」は全額から17万1,000円を引いた額、「良好」は「やや優秀」額から17万1,000円を引いた額(全額の半額)、「やや良好」は「良好」額から17万1,000円を引いた額、「普通」は「やや良好」額から17万1,000円を引いた額(ゼロ、成果報酬支給なし)となっていた。議員全員の評価が「優秀」と評価されれば、成果報酬総額は全て支給されるが、それ以下の評価が出れば、成果報酬総額は余るから、余った報酬額は次年度予算に繰り越されることになる。
 一般に、報酬とは一定の役務の給付の対価として与えられる反対給付のことであるが、議員報酬は、一般の報酬の考え方のほかに、住民代表としての地位に対し職務と責任に応じて与えられる給付的性格も併せ持っているとされている。五木村議会の場合は、条例で決められている議員報酬額自体には手をかけていない。それを前提にして、定額報酬と成果報酬に分けているから、定額報酬は、議長、副議長、議員であること自体に基づいており、どのような議会活動・議員活動を行ったかの評価なしで支給される。
 議員報酬を定額、成果に分けていない場合は、住民代表としての地位にふさわしい職務と責任を果たしているかどうかの評価は、有権者が等しく1票を投じることのできる選挙を通じて行われる。候補者の主張や人柄、日頃の振る舞いを採点する最も重要な仕組みが選挙とされているからである。五木村議会での成果主義の導入をめぐっては、例えば、議員報酬に民間のような成果主義はなじまないのではないか、成果報酬目当ての質問やパフォーマンスが増えるのではないか、議員の働きを評価するのは本来、有権者であってあくまで選挙によって行われるべきではないかという指摘も行われた。
 しかし、選挙には様々な要因や思惑も作用し、当選して議員になったからといって、その職務と責任を十分に果たすかどうか分からない。実際の活動を通じて挙げた実績・成果を評価し、その評価結果を報酬の一部に反映させることによって、議員同士の切磋琢磨(せっさたくま)を促し、地元を元気にさせようという考え方があってもよい。
 問題は、当事者である議員も住民も納得がいく評価が行われるかどうかである。まず、評価評語に気になる点があった。

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