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2015.12.25 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その6)

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専門性というより技能・能力

 しかし、『報告書』でいう専門性は、むしろ議員に期待される技能・能力のようである。専門家は、ある特定の知識や経験に裏打ちされて、決定・実践できるときに、専門性があるといわれるのかもしれない。とすると、議員に期待されている決定・実践とは、議会で質疑したり、議決・決定することであるから、そのために必要な特定の知識や経験ということであろう。多くの場合、こうした知識・経験は、実際に仕事をしながら習得するというOJTであるならば、議員は多選によって経験を積むしかないということになる。
 『報告書』の③は、特定の政策分野や地域に関する知識内容そのものではなく、それらを政策提言や立案につなげる手続のノウハウのようである。いくらすばらしい内容の知見を持っていても、それは素材にすぎず、現実の政策にまでつくり上げるには、別の技能が必要になりそうだということである。材料収集の技能ではなく、材料を調理する技能という感じかもしれない。もっとも、その内容はいかなるものなのかは、全く不明である。
 もっとも、多くの政策は、実際には首長部局の下で行政職員がつくり上げたり、国の官僚が作成した「出来合い」の加工食品を、そのまま自治体行政職員が盛りつけるだけかもしれない。そうなると、議員が政策につくり上げる技能を持つ必要があるかには、疑問の余地もあろう。必要なのは、調理する技能ではなく、要望を出したり、注文したり、食べてうまいかまずいかを判別したり、あるいは、そもそも注文して食べる前に、うまいかまずいか予測する専門性かもしれない。提言・立案する以前に、住民になり代わって、何がうまいかまずいか、つまり、地域社会にとって望ましいか否か、分かっていない議員が多いのかもしれない。何でも首長が提案するものを、うまいともまずいともいわずに黙々と食べ続ける与党議員は、そもそも政策的な味覚音痴ということである。
 ④は、こうした意見集約・合意形成の能力であるが、政策のうまいまずいを判別する能力には、こうした能力が必要である。首長であれば個人でうまいまずいを判別すればよい。もっとも、その判別が住民感覚とずれていると問題があるので、ミシュランガイドブックの審査員のように、人々の好みを体得する能力は必要である。しかし、議員の場合には、自分自身の研鑽(けんさん)だけではダメで、議会として合意に至るための、手続や過程に関する技能も必要ということであろう。意思決定・合意形成のプロというイメージである。

議員の専門性と議会の専門性

 『報告書』では、専門性は議員個々人のミクロ・レベルの問題と、議会全体としてのマクロ・レベルの問題があると指摘されている。つまり、個々の議員が平均的に専門性を持つ必要はないということである。ただし、個々の議員に専門性はなくてもよいとしても、全員の議員に専門性が全くなければ、ゼロ足すゼロはゼロである以上、やはり議会全体としても専門性はないということになる。そこで、政策形成などの議会機能を一層発揮していくためには、議会として、個々の議員の専門性を高めるよう、研修等を行うことが指摘されている。
 しかし、それを上回る専門的知見については、公聴会や参考人制度等の活用を図り、議会の専門性を高めることはできるとも『報告書』は述べている。この場合には、個々の議員の専門性の総和は高くなくても、外部から専門的知見を調達すれば、議会としての専門性を確保できるということになる。となれば、実は、個々の議員には専門性は不要である、という結論になってもおかしくはないだろう。つまり、専門性も外注に出せばよいのである。
 もっとも、専門性を持たない議員及び議会が、専門性の調達を外注したときに、その是非弁別や善しあしを判断できるかという問題はある。これは永遠の課題である。素人が玄人を雇うのは、素人だからである。しかし、素人は玄人の善しあしが分からなければ、玄人にだまされても分からない。かといって、玄人はだしに詳しくなれば、玄人を雇うまでもない。議員や議会は、いかなる専門家を呼ぶべきか、そして、専門家のいったことは妥当なのか、鑑別がつくとは限らない。とすると、専門家の良否を区別・評価する能力が、議会や議員に求められているのであろう。自分で味が分からなくても、よいガイドブックを探せればよい、ということである。しかし、ガイドブックの善しあしを見分けるのは容易ではない。

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