2015.11.25 議会改革
『地方議会に関する研究会報告書』について(その5)
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
これまで4回にわたり、総務省に設置された「地方議会に関する研究会」の最終報告書である『地方議会に関する研究会報告書』(以下『報告書』という)を検討した。前回は、決算不認定を取り上げてみた。今回も、引き続いて、この『報告書』を検討してみよう。
『報告書』の「第Ⅲ章(1) 地方議会の議員に求められる役割」「第1節 地方議会の議員に求められる役割・資質」は、代表性と専門性であるとまとめられている。自治体議員に求められる資質が、こうした2つに限定できるかは疑問もあろうが、今回は『報告書』に沿って、代表性から論じておこう。
代表性の建前と代弁性の本音
国会議員の場合には、「全国民の代表」と憲法に明確に規定されているので、代表性が期待されていることは疑いがない。この場合の代表性とは、選挙区の代表者という意味ではなく、選挙区がどうであれ全国民の代表ということである。また、理屈上は、自分に投票をしてくれなかった人も含めて、代表しなければならない。つまり、自分の支持者だけを考えてはいけないということである。
もっとも、こうした建前論は、政治力学の現実の前には、大変に弱いことも事実である。議員は、自分の選挙区を考え、さらにいえば、自分の支持者(支持政党、支持団体など)の利益の代弁者として行動することが多い。対立候補の支持者を代表するというような、「大きな器」を持った政治家が少ないことは、火を見るより明らかである。特に、1990年代の政治改革=小選挙区制の導入以降は、反対党派の支持者を含めて、国民全体のために行動するという「大人の保守」の発想は衰え、「勝てば官軍」的に、自分党の支持者に偏った政治をしても恥じるところがない政治家が増えている。
自治体議員の場合には、明確に「全住民の代表」という規定はなく、単に住民から直接選挙されるだけと規定されているので、どの範囲での代表性が期待されているかは、明らかではない。しかし、代表民主主義の原則から鑑みて、自治体の議員も、単に自分の選挙区や自分の支持者の代弁者にとどまってはいけないのは、国会議員と同じであるといえよう。
国民主権原理に対応する概念が自治体にはないと『報告書』は安直に述べるが、必ずしも正しくはない。国民主権原理に対応するのは、憲法制定議会における代表者であって、憲法に基づいて設置された国会の議員は、主権者としての国民の代表ではなく、機関としての「全国の人々(全国民)」の代表である。同様に、地方議会の議員は、機関としての全住民の代表である。