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2015.11.25 議会運営

第44回 請願審査中における請願内容の願意の実現不能の場合における取扱い

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全国市議会議長会調査広報部参事 廣瀬和彦

Q国会において安全保障関連法が2015年9月17日に参議院で可決、成立したが、その際に多くの地方議会において審議中であった安全保障関連法案を廃案とする請願をどのように議事運営上取り扱うべきであるか?

Aこの取扱いの前にまず、請願における採決の意義とその態様等について説明する。
請願の採択とは請願そのものを議決するのではなく、請願に対する議会の意思を決定することをいう。
 請願採択に当たっての基準としては、一般的にはその請願の願意が妥当であって実現可能性のあるものが採択の基準として考えるべきものであると解する。
 請願に対する採択結果の態様として理論上は標準市議会会議規則(以下「市会議規則」という)143条に規定されているとおり、①採択すべきもの、②不採択とすべきものの2つしかない。

【市会議規則143条】
① 委員会は、請願について審査の結果を次の区分により意見を附け、議長に報告しなければならない。
 1 採択すべきもの
 2 不採択とすべきもの
② 略

 請願の採択とは、請願の趣旨を妥当と認め、請願の願意の実現を図ることを目的に請願に対する議会の意思を決定することをいう。
 不採択とは、請願の趣旨を妥当と認めないため請願に対する議会の意思決定である過半数に満たない場合をいう。
 ここで、請願を審査又は審議するに当たっても、会議原則である可を諮る原則が適用となることから、請願そのものに対し原則として採択であるかどうか諮る取扱いをすることとなる。
 ところで、請願は原則として請願文書表の配布とともに委員会に付託されることから、委員会審査終了後本会議で請願を採択するに当たって衆議院先例298のとおり「委員会の審査を終了した議案は、委員会報告のとおり決するか否かについて採決するのを例とする」として委員会報告のとおり諮る方法か、あるいは参議院先例322のとおり「委員会から可決報告又は否決報告のあった議案は、原案について採決する」として請願そのものを諮る方法をとることが考えられる。

【衆議院先例298】
 委員会の審査を終了した議案は、委員会報告のとおり決するか否かについて採決するのを例とする。

 委員会の審査を終了した議案は委員会報告のとおり決するか否かについて採決するのが例である。
 しかし委員会の報告が否決である場合には、原案について採決するのが例である。

【参議院先例322】
 委員会から可決報告又は否決報告のあった議案は、原案について採決する。

 委員会から可決報告又は否決報告のあった議案は、原案について採決する。この場合に議員から修正案が提出されているときは、まず修正案を採決し、次に原案を採決する。
 ここで、委員会は本会議の縮図であることから、委員会報告のとおり採択される場合が想定され、その場合は問題がないが、委員会における審査結果が不採択の場合、委員会報告のとおり不採択を諮った場合に、委員会報告のとおり不採択とすることに出席議員のうち賛成の議員が半数未満の場合は、議会の意思が決定していないこととなる。この場合、再度請願そのものに対して採択か否かを諮ることとなる。これは事務能率上適当でないこととなること、委員会報告が不採択である場合は請願そのものに対して採択かどうかを諮ることが適当である。
 さて、市会議規則上における請願に対する採択態様における規定と異なり、実務上における請願の採択は、①一部採択、②趣旨採択、③みなし採択、④議決不要がある。
 まず実務上の取扱いである請願に対する一部採択であるが、一部採択とは請願者の意思を一部でも尊重することを目的としてなされる請願の一部分を採択することをいう。請願にも議案一体の原則が一般的には働くものと解されるが、議員は住民の負託を受けた住民の代表であることから、少しでもその請願の願意を実現させることが議員としての責務であるとすること、請願に対しては議会で修正がかけられないこととする考えから生じた実務上の考えであると解される。
 ちなみに、一部採択を行う場合は、①請願の一部分のみを採択し残りの部分については議会として意思決定を行わない場合、②請願の一部分を採択し残りの部分を不採択とする場合の2つの方法がある。
 次に請願に対する趣旨採択とは、当該請願の願意全体には賛成できないが、その趣旨とすることには賛成することができるとする場合に、請願の趣旨に対してのみ議会として採択することをいう。
 請願者の願意を尊重して行われる一部採択と似ているが、一部採択と異なる点は、一部採択は請願の一部が明確にされるのに対し、趣旨採択では趣旨という抽象的なものであることから明確性に欠けることであるといえる。
 みなし採択とは、請願と同趣旨の条例や意見書等が当該請願と同一会期中ですでに可決されたり、又は同趣旨の請願が同一会期中に採択されている場合に、一事不再議及び議事能率の観点から、採択したものとみなすことをいう。同様にみなし不採択とすることも可能である。
 ここで、請願に対してそもそも一事不再議が適用となるか疑義が生じるが、行政実例昭和28.4.6のとおり、一事不再議の原則は適用にならないと解され、提出者を異にする同一趣旨の請願を採択しても他の請願・陳情を審議することが可能であると解される。ただし、このような場合は、議事能率の観点から請願を一括議題に供して審議することが適当であると解する。

○同一趣旨の請願、陳情の取扱(行政実例昭和28.4.6)
問1 提出者を異にする同一趣旨の陳情又は請願の一を採択又は不採択の議決をしたときは、他の陳情又は請願を審議することができるか。
 2 意見書を議決されたいとの請願又は陳情があり、これと同一趣旨の意見が既に議員から発議されてこれを議決したときは、その請願又は陳情を審議することができるか。
答  1、2いずれもお見込みのとおりと解するが、1のごとき場合は、一括することが適当である。

 続いて議決不要とは、案件の内容が同一趣旨であるが一事不再議の適用とならない形式の異なる案件について、案件の重要度が高いものが可決されれば重要度の低い案件を議決する合理的理由がないことから議決をしないことを決することをいう。
 ここで議決不要とするひとつの基準として、政治的・法律的な重要度として①条例案、②予算案、③意見書案、④決議案、⑤請願、⑥陳情の順に重要度を決し、重要度の高いものが先決されている場合には、形式を異にしても重要度の低い案件に対して一事不再議の原則が適用となるとする考えがあり、地方議会の実態に即した運営に資されるため一考に値する方法であるといえる。
 さて、一事不再議とは、議会において一度議決した事件については、特別の場合を除き、同一会期中において再度審議することができないことを指す。特別の場合とは、地方自治法(以下「法」という)176条及び177条における再議等の法律に特別の規定がある場合と、事情変更の原則により再審査や再付託を行う場合を指す。
 なお、一事不再議の「議」は審議を指すのではなく、議決を指すため、同一会期中に議決された案件と一事に該当する案件が提出されても、理論上一事不再議により議決はできないが、審議は可能である。しかし、実務上議決をしない案件の審議は意味がないので、議決の前提である審議も行わない運用がとられている。
 市会議規則15条では「議会で議決された事件については、同一会期中は再び提出することができない」と規定されている。

【市会議規則15条】
 議会で議決された事件については、同一会期中は再び提出することができない。

 ちなみに一事不再議は、①議会が議決した事件と同一内容の事件を再び審議することはできない、②一事不再議の原則は同一会期において適用される、③一事不再議の原則は例えば本会議と委員会というように審議の段階が異なる場合は適用されない(例として委員会で提出され否決された修正案と同一の修正案を本会議に提出し審議することは可能)、④一事不再議の原則は同一形式の事件、例えば条例案同士や決議案同士について適用される(例として意見書と請願は内容が同一でも形式が異なるため一事不再議が適用にならない)、⑤事件を撤回した後、同一内容の事件を再提出し議決しても一事不再議の原則は適用されない。
 また、一事不再議が適用にならない場合は、①法74条に基づく直接請求による条例の制定改廃、②法176条及び177条に基づいた再議、③請願及び陳情、④議事進行の動議、⑤事情変更、⑥議会運営委員会又は議会において別個のものとみなす旨議決した複数の修正案、⑦同一内容である意見書と決議のように形式が異なる議案がある。
 さて、本問における安全保障関連法案を廃案とする請願審議中に安全保障関連法が国会で成立した場合の取扱いであるが、安全保障関連法案と安全保障関連法案を廃案とする請願は形式が異なる案件であること及び国会と地方議会という審議の場が異なること、さらに請願には一事不再議が適用とならないことから、理論的に一事不再議の対象にならない。
 しかし、安全保障関連法が成立すると、安全保障関連法案を廃案とするという願意を達成することはできないため安全保障関連法案を廃案とする請願を審議する実益はなくなる。それゆえ、安全保障関連法案を廃案とする請願を採択する合理的理由がない。
 そこで、理論的には一事不再議の適用がなくても、実務的観点から一事不再議を適用し、一方が可決されれば、他方を議決不要とする運用をとることはできる。
 この場合、議決不要とする基準を案件の政治的・法律的な重要度から判断し、重要度の高いものが先決されている場合には形式等が異なっても一事不再議が適用されるとした。その際の重要度の順序は、①条例案、②予算案、③意見書案、④決議案、⑤請願、⑥陳情である。
 ゆえに本件における安全保障関連法案を廃案とする請願を審査中に安全保障関連法が成立した場合は理論的には一事不再議が適用とならないため、請願を採択又は不採択することは可能であるが、実務的観点から考えると、一事不再議とし請願を議決不要又はみなし不採択とする取扱いとすることが適当であるといえる。

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