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2015.10.26 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その4)

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決算不認定の効力

 さて、現行制度及び『報告書』は、決算不認定になっても、首長側に何の法的効果ももたらさないことを選択している。その結論は、決算不認定の目的は、首長に対して議会が指摘した問題点等に対する善後策等を求めることなどになると考えられるが、直ちに首長の事務執行について必ず善後策等を講じることを義務付けることにはならない、というわけである。その理由は、①首長と議会の権力分立ないし権限配分の観点、②住民に対する公表を通じた住民による監視、に求められている。
 しかしながら、いずれの理由も充分に練られたものではない。①の権力分立・権限配分という一般論を提示されれば、なぜ条例や予算が議決事件であるのかさえ、説明がつかなくなってしまうであろう。決算不認定に法的効果がないというのは、予算でいえば、予算議決に法的効果がないのと同じことである。それは権力分立とはいわず、むしろ首長への権力集中でしかない。いわば、現行制度は、予算段階では権力分立はあるが、執行・決算段階では権力分立がないということになるからである。
 ②も意味不明である。公表を通じて住民が監視するので充分であるならば、条例を首長が「高札」に掲げて、住民が見ればよい、と言っているようなものである。公表や情報公開は行政に対する監視の基礎ではあるが、それだけで監視がなされるものではない。監視は一定の権限又は権力によって裏付けられていなければならない。住民に公表して住民が行政を監視できるのは、最低4年に1回は首長選挙の機会があるからである。
 同様に、議会が行政を監視するには、何らかの権限の裏打ちがなければならない。首長への不信任議決が単純過半数であるならば、決算不認定自体に効力がなくとも、直ちに首長不信任に直結するので効果がある。しかし、自治体の場合には、4分の3の特別多数が必要である。したがって、過半数の単純多数決で決算不認定になっても、直ちに不信任にはつながらず、決算不認定だが首長はそのまま居座る、という宙ぶらりんな状態が可能になるのである。

手遅れ論と善後策

 決算不認定に効果を持たせても仕方がないという発想には、すでに予算執行してしまったものであるから、回復しようがないという諦観がある。予算の場合、議決をしなければ予算執行はできないのであるから、議決に効果の発生をさせることは容易である。しかし、決算の場合、すでに執行=支払は終わっているから、それに対してケシカランと政策的事務的に不認定をしても、資金が戻ってくるわけでなない。もちろん、違法な支出の場合には、損害賠償をさせるという可能性はあるが、それは、決算不認定があろうとなかろうとなすべきことである。
 もちろん、決算不認定は、支出してしまった資金を回収することではなく、すでに執行した予算を前提に、どのような善後策を講ずべきかという問題であって、これならば、なお事後的に可能性がある。もちろん、「カネを取り戻してこい」とうような不可能な善後策を求める決算不認定であれば、そもそも不可能なのであるから、執行不能決算不認定であって、実際の効果は生じない。要は、実行可能な善後策はあり得るから、その場合には、単なる手遅れとして諦めるべきことではないということである。
 もっとも、善後策の具体案を考えるのは、執行部側となろう。議会が善後策を技術的に決定できるかもさておき、仮に議会が善後策を決定しても、執行部がロボットのように議会の決定を執行することは、必ずしも適切な抑制均衡関係にはならないと思われる。執行部は自らの意に反するような善後策は、実質的には骨抜きにするからである。したがって、善後策を検討して実施することを執行部に義務付けることが、議会の決算不認定の効果となろう。もちろん、どのような善後策を採るかは結局、執行部に委ねることになるから、キチンと善後策を執らない可能性はある。したがって、議会は決算不認定によって、①首長に善後策の実施を義務付け、②その報告を議会に行うことを義務付け、③報告された善後策に対して再び認定・不認定を行うことになるのが妥当であろう。
 この場合、①を首長が懈怠(けたい)する、②を首長が懈怠する、③でも、なお議会が納得せずに善後策の結果を不認定する、ということはあり得る。この場合、ある年度の決算は依然として不認定である。論理的には、永遠に決算認定を受けられないという可能性はある。それは、首長に①②の義務を永遠に課すことになろう。もちろん、首長も永遠に懈怠し続けることは可能であるが、だからといって、決算不認定に効力を持たせなくてよいということにはならないのである。

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