地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2015.09.25 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その3)

LINEで送る

『報告書』の両論の検討(4)~議会の起動~

 これらに対して、③(議長選出)と⑥(首長への監視)は、いささか原理的な問題をはらむ。③の指摘することは、要は議員が集まらないと議長を選出できないが、議長を選出するために議員が集まる段階には、議長はまだ選出されていないのだから、議長によっては招集ができない、ということである。そうなれば24時間365日の常時存在している機関が招集権者でなければならない。とすると、首長が最も適切に思われるということである。
 もっとも、議長選出がなされていない議会選挙直後などは、一定期日に自動的に参集する仕組みにしておけば充分ともいえる。あるいは、最年長議員、トップ当選議員など、特定の議員に仮議長の役割を制度的に付与してしまえばよいのである。
 ⑥は逆に、首長ほかの行政部を監視するのが議会の仕事であるにもかかわらず、その仕事を監視される側の首長が招集しなければ起動できないのは原理矛盾である、ということである。要は、議会に監視されたくない首長は招集をしたがらないに決まっているわけである。実際、それゆえに、首長にはフリーハンドの議会解散権を与えていない。あくまで、議会が首長を不信任議決したときのみ、議会の解散ができるのである。これは、監視役である議会が気に食わないからといって、勝手に解散できないということなのである。同様に、監視役である議会が気に食わないからといって、招集できないようにしておくのはおかしいということである。
 もっとも、首長が招集しないときには、議長・議員が臨時会を請求できるし、請求に対して首長が応じないときには議長が招集できるとされているから、「実際上の問題」はなく、ただのメンツや観念・理念の問題にすぎないということもできる。

実際上の問題

 実際上の問題は、実際に発生したときに、迅速に対処すればよいのであって、事前にあらゆる事態を想定する必要はない。上述のとおり、「阿久根市問題」という「異例の事態」(8頁)にはきちんと対処してきたという自負が自治制度官庁にはあろう。もっとも、何年間も阿久根市政の紛争を放置したのは事実であり、本当に対処が機動的であったかどうかは、疑問である。
 とはいえ、自治=「自ずから治まる」に委ねるのも自治制度の妙味であって、あらゆる事態を未然に防ぐように規定を細かくすることは、自治適合的とは思えない。むしろ、地方自治法は規律密度が高すぎるのであって、こうした「実際上の問題」が生じるたびに、弥縫策の対処をするという発想自体、健全なのかにも反省も必要であろう。つまり、自治制度は、原理原則や観念に基づく大綱の制度にとどまるべきであり、その範囲内での実際の諸問題は、自治体の住民自らが解決すべきであるということである。
 「阿久根市問題」は、結局、住民による市長リコールが機能したのであり、解職請求の署名集めが可能な自治体の規模であったことが、「実際上の問題」を住民自治的に解決することにつながった。たまたま、阿久根市が小規模市であったことが功を奏したのであり、大規模市で市長暴走が生じたら、現状の直接参政制度という原理では、「実際上の問題」を解決し得ないということだったかもしれない。この点では、『報告書』が「第2節」までは着目した「人口規模」は、本当は「第3節」でも大きな意味を持っているといえよう。某大規模市の市長が、国会前のデモに異常に批判的なのは、こうした直接民主的な行動が強化されると、自らの市政での暴走がしにくくなるからであると推論することができる。
 「実際上の問題」は、議長が選出されていない段階で、首長が議会側の臨時会の請求に応じない場合に発生しよう。つまり、議会選挙直後に首長と議会多数派との対立が抜き差しならないという状態である。例えば、不信任議決・議会解散・議会選挙後に、首長が議会を招集しないとき(もちろん違法である)である。この場合には、議長自体がいないのであるから、議長への招集権の付与という問題ではなく、自動参集の是非、すなわち、招集自体が必要かどうか、という議論に入ることになる。

【つづく】


(1)『報告書』そのものに忠実に表現すると、「Ⅰ」とローマ数字が裸で記載されており、「第Ⅰ章」という表記ではない。しかし、本稿では、単に「Ⅰ」「Ⅱ」……では分かりにくいので、章立てとみなして、「第Ⅰ章」「第Ⅱ章」……と表記する。その下位項目は「1」「2」……であるが、「第1節」「第2節」と表記する。さらに、その下位項目は、(1)①となっている。

この記事の著者

議員 NAVI

今日は何の日?

2025年 425

衆議院選挙で社会党第一党となる(昭和22年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る