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2015.09.25 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その3)

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之

はじめに

 前回・前々回と、総務省に設置された「地方議会に関する研究会」の最終報告書である『地方議会に関する研究会報告書』(以下『報告書』という)を検討した。前回は、『報告書』が着目した「人口規模」を取り上げてみた。今回も、引き続いて、この『報告書』を検討してみよう。

議会の招集権

 『報告書』は、議会機能を検討する際に、人口規模による差異に関心が深いが、「第Ⅱ章(1) 議会制度及び議会運営のあり方」「第3節 議会制度に関する個別論点」では「(1)招集権」が唐突に取り上げられており、必ずしも、人口規模と招集権の関係が議論されているわけではない。
 沿革的には、2006年の地方自治法改正により、議長に臨時会の招集請求権が付与され、議長又は議員からの請求に対しては20日以内に首長が招集することを義務付けたことが解説される。しかし、いわゆる「阿久根市問題」等のように、議会の側からの臨時会の招集請求があっても首長が議会を招集しないという事例が発生した。そこで、このような「異例の事態」に対処するため、2012年の地方自治法改正により、首長が臨時会を招集しないときには議長が招集できるという改正がなされた。いわば、招集権が首長に専属する原則を維持したまま、例外的に議長が招集できるようにしたのである。つまり、このように必要な対処は臨機応変にしてきており、「さらに対応すべき点があるかが問題となる」ということで、反語的に、議長に招集権を付与しないという結論を導くのである。
 首長に招集権が専属する根拠には、①首長の統轄代表権とそれを原則とする制度体系、②議案の大多数が首長提案、③議長は議会が成立しないと存在しないこと、④執行部局の議会出席義務により執行機関の事務に支障を及ぼすこと、などが挙げられている。『報告書』では、①では法的根拠としては薄弱、④は通年会期制の下では主張できない、という反論も併記されている。
 議長に一般的な招集権を付与すべき論拠には、⑤二元代表制、⑥議会の首長への監視のためには議会が自立的に参集すべきこと、⑦議員と委員会にも議案提出権があること、⑧議員のみの議会審議、という諸点が指摘されている。『報告書』では、⑤では直ちに議長の招集権が導き出されるほど概念は明確ではない、⑦に対しては、実態として議会側からの議案提出は一部にとどまること、などが反論とされている。
 結局、『報告書』は、このように両論併記に終始し、「議論の対立に関しては、実際上の問題が生じていない限り、議論は決め手に欠ける」(9頁)ということで、現状維持=首長に招集権を専属、ということになる。もっとも、議論に決め手がないならば、議長に招集権を並行的に付与しても何の問題もないようにも思えるが、特段の問題がなければ現状維持というのが制度の「論理」である。そして、結局は、「実際上の問題が生じて」いるか否かという、極めてプラグマティック(状況主義的)に判断するということである。つまり、観念論の両論併記と、実際論の弥縫(びほう)的対応とに、思考が分裂しているのである。

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