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2015.09.10 政策研究

戦前からの路面電車が今も活躍する中国・大連

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元日本経済新聞論説委員 井上繁

 海外の都市でも治安が乱れていない限り、できるだけ公共交通機関で動くことにしている。乗り物を通して、乗客の様子や、人々の暮らしの一端を肌で感じることができるからだ。だが、不慣れなため、失敗することも少なくない。中国・大連でも例外ではなかった。大連駅近くで昼食をとり、いったん宿泊先のホテルに戻るため飛び乗った路面電車が目的地とは反対の方向に走り出したのだ。
 一瞬あせったが、急ぐ旅ではなかったため、そのまま終点まで乗っていくことにした。終点では、反対車線に折り返し電車が停まっており、飛び乗った。これが何と、この都市で今も現役で走り続ける戦前に製造された車両だった。災いを転じて福となすことができ、小さな喜びをかみしめた。
 大連の路面電車は、20世紀初頭に運行を始めた。その後、一時は路線が増えたが、徐々に縮小され、現在は、筆者が間違えて乗車した201路と、202路の2系統だけになっている。201路は、大連駅を中心に市街地を東西につないでいる。202路は201路の西の終点の興工街と住宅地の小平島前を結ぶ。路面電車の運賃は1元(約20円)の定額制だが、201路で大連駅をまたいで乗車する場合はさらに1元払う。乗車時は、1両3扉の前後の入り口から乗り、ICカードをカードリーダーにかざすか、運賃箱に現金を入れる。中央の扉は降車専用である。運行時間は早朝から23時台と長い。
 後で調べたら、飛び乗ったレトロ調車両は旧3000型で、1930年代に日本車輌で製造されたものだった。ただ、運転席の後ろの壁には「大連公交客運集団有限公司、2007年」の表示があった。2007年は車両をリニューアルした年である。
 この旧型車両は1両編成で、座席は7人がけのロングシートが片側に2か所だけ。乗車定員は190人と表示があり、実際、かなりの混雑ぶりである。手すりは真ちゅう製でつり革がついていないため、小柄な乗客にとっては不便だ。内装は座席を含め、床以外はすべて木製である。前の席が空いて、腰掛けたら振動が直接、尻に伝わってきた。電車はスピードを落として、徐々に停まる。それでもブレーキをかけるたびに金属が触れ合うような音が響く。
 日本でも路面電車は縮小を続けているが、高知市や広島市などでは“クラシック電車”が走り、都市自体が「路面電車の博物館」を売りのひとつにしている。これらは外国を含め各地から車両を集めた結果である。
 大連の場合は、他の都市から譲り受けたのではなく、この土地で戦前から走行している車両を大事に使ってきて、今日に至っている。ただ、現在は走行する車両の半数近くは、低床式で3車体連接のLRT(次世代路面電車)に交代している。旧型車両も改装を繰り返し、カードリーダーを導入してICカードを使用できるようにするなど新しいシステムに切り替えているから長寿を続けているのだろう。
 2015年5月には、同市初の地下鉄が開通した。開通したのは地下鉄2号線の一部、機場(空港)駅~会議中心駅間24.5キロメートルである。全ルートの約7割で、駅は17駅である。10分間隔で運行している。これによって空の玄関口である大連周水子国際空港、鉄道の大連駅(青泥窪橋)、大連港(港湾広場)が乗り換えなしで結ばれた。西安路駅で交差する地下鉄1号線も一部が間もなく開通する予定である。
 この都市の路面電車の線路には、バスや乗用車が当たり前のように進入してくる。このため、電停の時刻表どおりに走行できないのが悩みの種である。しかも、201路で、線路に接する形でプラットホームが設置されている停留所は大連駅前など一部にすぎない。多くの停留所はバス停と同じように歩道にあり、電車が到着すると、客は車道を渡って乗降する。信号があって、それが赤の表示に変わらない限り、車が走行している道路を横切らなければならず、危険と隣り合わせである。
 地下鉄は運転時間が正確である。その利用者が増えて、中心市街地に乗り入れる車が減れば、路面電車の乗客は今より安全に乗降できるようになり、定時性も確保されるだろうか。

多くの停留所で、路面電車の乗客は車道を横切って乗降多くの停留所で、路面電車の乗客は車道を横切って乗降

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