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2015.08.25 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その2)

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人口の著しく減少した団体

 さて、このような人口規模を重視する発想からは、「消滅可能性自治体」に興味が向かうことになる。これが第2節で取り上げられている。そこで制度上の選択肢としてしばしば言及されるのが「町村総会」(地方自治法94条)である。これは、憲法上、議会が必置であるにもかかわらず、地方自治法で議会設置をしない例外を認めたものである。これがいかなる意味で合憲かは議論が必要であるが、ともかく、現に採用している自治体がないことから、深く論じられることはない。また、『報告書』でも、ひとつの選択肢としては指摘されているが、人口が一定規模以下に減少した場合にも、一律に町村総会制にすべきという議論は排除されている。
 その上で、人口が著しく減少すると議員数はごく少人数となるから、住民参加による補完が必要であるとする。議員だけで「負の分配」をするのは難しいから、住民参加をしてから議会として意思決定をするとか、議員だけで監視機能を果たせないから住民参加で補完することが、『報告書』で提言されている。
 もっとも、こうした問題は、果たして「人口の著しく減少した団体」の固有の問題なのかは、大いに疑問がある。大規模団体であろうと、中規模団体であろうと、「負の分配」は難しいのであって、議員だけで有効な合意形成ができるかには疑問もあろう。また、大規模団体であろうと中規模団体であろうと、監視機能を充分に発揮できているかどうかも、疑問であろう。すなわち、住民参加による補完の必要性は、必ずしも町村総会が想起されるような極小規模団体に限られた問題ではない。しかし、『報告書』は、住民参加による補完を、こうした極小規模団体に限る、という暗黙裏の傾向性を持っているようである。つまり、住民参加に消極的なのである。

暗黙の前提

 『報告書』の暗黙の前提は、かつての地方自治法の議員定数法定制にあると推察される。実際にも、現在、議員定数の法定制は解除されているが、従前の議員定数と無関係に議員定数を決めることはあり得ないので、漸変主義(インクリメンタリズム)的に以前の定数が現在の定数を決めている。その限りで、『報告書』の想定は現実的である。
 以前の法定数は、(ア)人口規模が大きくなるごとに議員定数も多くなる、(イ)ただし、議員定数の多くなる度合いは、人口に比例してではなく、それより逓減している、というものである。つまり、人口が百倍になっても、議員定数は増えるものの百倍にはならない。結果的に、大規模団体は「議員数は多いが、議員1人当たりの住民数も多い」ことになり、小規模団体は「議員数は少ないが、議員1人当たりの住民数も少ない」ことになる。
 議員数と議員1人当たりの住民数という2つの特徴は、実は別次元である。議員数は、議会内での意思決定のあり方に影響を与え、議員数が多くなれば会派による調整が不可欠になってくるが、議員数が少なければ個人単位で行動しても調整が可能である。また、議員1人当たりの住民数は、議員と住民の結びつき方、代弁性、身近さ、代表性に影響を与える。
 『報告書』の議論から推論すれば、「議員数は多いが、議員1人当たりの住民数も多い」大規模団体の議会は、意思決定に際して個々の議員の意向が抑圧されて会派に依存せざるを得ず、同時に、個々の議員は住民から身近ではないので、住民の多様な意見を的確に把握することが容易ではなく、住民代表性を欠きやすいということになる。つまり、大規模団体の議会は、専業化して、事務局の支援体制もあり、議会機能を発揮しやすいかのように見えるが、実情は厳しいということである。要するに、個々の議員に力がなく、同時に、個々の議員は住民の意向を把握していない、ということである。
 いわば、大規模自治体の議会こそ、議会機能が最も脆弱(ぜいじゃく)なのである。大規模団体になれば行政能力が向上するという「規模の経済」という議論があるが、少なくとも、議会機能に関しては、全く逆なのである。大規模・小規模の二極の混合形態の中規模団体でも同じことが作用するならば、人口規模が大きくなればなるほど、議会機能は低下していくことになる。例えば、旧町村が市と合併すると議員総数は減少するが、まさに、議会機能の低下をもたらすことが、『報告書』の議論からは導出できる。その意味で、『報告書』は、平成の大合併について、行間において辛辣(しんらつ)に批判しているのである。

【つづく】


(1)『報告書』そのものに忠実に表現すると、「Ⅰ」とローマ数字が裸で記載されており、「第Ⅰ章」という表記ではない。しかし、本稿では、単に「Ⅰ」「Ⅱ」……では分かりにくいので、章立てとみなして、「第Ⅰ章」「第Ⅱ章」……と表記する。その下位項目は「1」「2」……であるが、「第1節」「第2節」と表記する。さらに、その下位項目は、(1)①となっている。

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