2015.08.25 議会改革
『地方議会に関する研究会報告書』について(その2)
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
前回は、総務省に設置された「地方議会に関する研究会」の最終報告書である『地方議会に関する研究会報告書』(以下『報告書』という)を検討した。そこでは、課題認識から始まって、「議会機能」というマジック・ワードを取り上げた。今回も、引き続いて、この『報告書』を検討してみよう。
人口規模
『報告書』は、議会機能を検討する際に、人口規模による差異に関心が深い。「第Ⅱ章(1) 議会制度及び議会運営のあり方」「第1節 地方議会の役割・機能」では「(2)人口規模と議会の特徴」とされて、「①規模の大きい団体」と「②規模の小さい団体」に区分されている。
もともと、日本においては、自治体は人口規模で分類されることが普通である。都道府県と市区町村の最大の違いは、同一都道府県内においては、都道府県が市区町村よりも、論理必然的に、人口規模が大きいことである。もっとも、同一都道府県内を離れて個々の県・市に着目すると、県よりも人口の大きな市区が存在する。しかし、府県並みの人口規模を持つ市は、通常、政令指定都市と位置付けられている。そして、政令指定都市は、その人口規模ゆえに、「府県並み」とする了解が成立している。「都道府県や指定都市等の大規模団体」という『報告書』の表記もこれを裏付けする。政令指定都市は大都市の特性を備えているというよりは、大規模団体の特性を備えている。
それ以外の市町村をどのように区分するかは、通常は、中核市、特例市、一般市、町、村、という類型によることが多い。もっとも、これらの類型は、格付け時点の人口規模を反映しているのであって、その後の人口変動によって規模は変わり得る。端的にいって、町村より人口の少ない一般市も存在する。また、町と村の関係でも同様である。『報告書』では、「町村等の小規模団体」として、「規模の小さい団体」を捉えている。結局のところ、①規模の大きい都道府県・政令指定都市等、②規模の小さい町村等、そして、『報告書』では特に触れられていない暗黙のカテゴリーである、③中間的な規模の市等、という三区分である。いわば、大中小である。
ただし、『報告書』は、中規模自治体には、特に関心はないようである。この理由は推測するほかない。第1には、全団体に統一的な法典である地方自治法及び地方議会制度は、画一的に適用されるがゆえに、平均規模を想定せざるを得ず、こうした中規模団体に適合する仕組みになっている、と暗黙に想定されているからであろう。もっとも、こうした想定は、先験的に当てはまるとは限らない。というのは、全団体に適用しようとして、中規模団体にも不適合な法規定になっているかもしれないからである。
第2には、大規模団体と小規模団体という両極を検討することで、全体像を捉えられる、という分析上の観点からなされているかもしれない。この場合、中規模団体には、大規模団体と小規模団体の双方の要素が混在しているという想定がある。そこには、質的な差異があるのではなく、連続的な量的差異が想定されているのである。しかし、どちらともつかない状況になっている可能性もあろう。例えば、『報告書』によれば、大規模団体では議員は専業化が進み、小規模団体では兼業議員の割合が高いと指摘されているが、では、中規模団体はどうなのか、触れられていない。中規模団体では、専業と兼業と半々ということになろうが、それゆえに、議会のあり方を考えることが一番難しいともいえるのである。