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2015.07.27 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その1)

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議会機能とは何か

 『報告書』第Ⅱ章は、「議会制度及び議会運営のあり方」であって、課題①に対する検討がなされている。問題となるのは、上述のとおり、議会機能とは何であるかである。実は、この問いに答えることは、「民主主義とは何か」とか「自治とは何か」と同様に、とてつもなく厄介な課題である。暫定的な回答と、それに対する暫定的な問い直しが、永遠に繰り返されるものであろう。
 『報告書』によれば、議会とは、住民の直接公選による議員で構成される「議事機関」として設置する旨が憲法で規定されていることから、代表機関であり、議決機関である、と理解されている。その上で、地方自治法においては議決機関としての議会の権能に関する規定が置かれているとする。つまり、地方自治法の中では、議決権(96条)が最も基本的で本質的なものという。なお、代表機関の側面の問題はどこに行くかというと、これは、課題②に対応する第Ⅲ章のテーマとされるようである。
 さて、議会とは議決機関であるとしても、それ自体では、何をどのように議決すべきかが明らかにならない。そこで、議決に期待される役割は何なのかということが、議会機能に関することである。『報告書』によれば、(1)団体意思決定機能、(2)政策形成機能、(3)監視機能、というように整理されている。一応、常識的なとりまとめということはできよう。しかし、議会機能は、本当に上記のように整理できるかどうかには、疑問もあろう。
 団体意思決定とはいいながら、執行機関限りで公式の意思決定ができる領域は、非常に多い。いわゆる行政処分は、基本的に執行機関側が行政庁として行っている。こうした意思決定は、機関の意思決定ではあるが、団体の意思決定ではない、などと、行政法学的な行政官庁理論で区別することはできるかもしれないが、行政学的にはほとんど無意味である。行政庁としての行政処分であろうと、結果的には、当該自治体の公式の意思決定にほかならないのであって、自治体という団体が無関係にはならないからである(2)。となると、議会は、団体意思決定の総体のうち、どの範囲をどのようになすべきなのか、が問われなければならない。しかし、『報告書』では、その点は全く不明である。
 「議決事件については、議決によって団体意思が決定される」(3頁)という、同義反復がなされているのである。結局、団体意思決定機能ではなく、すでに存在する議決事件について、どのように議決をすべきか、という話に矮小(わいしょう)化してしまうのである。そうなると、議決事件の範囲はどの程度であるべきか、という問いに答えられない。そもそも、地方自治法96条2項では、議決事件の追加が可能である。しかし、『報告書』の構造では、(ア)議決事件を自治体議会として、どのように追加すべきか、あるいは、追加すべきでないのか、という問いに答えられない。この構造は、(イ)法定議決事件(96条1項)の範囲の拡大や、(ウ)予算修正権限の範囲の問題の検討、ができないことにもつながる。研究会内部では、(イ)、(ウ)についての意見はあったのであるが、『報告書』では保留されてしまっている。
 政策形成機能というのも、大変に曖昧な内容である。『報告書』では、政策過程全般を指すのではなく、政策の「執行・監視」と区別される意味での、「政策創出・定立」の側面だという。結局のところ、「監視機能・執行機能でないもの」ということであって、茫漠(ぼうばく)としたものである。あえていえば、「監視機能」「政策形成機能」を議会機能とすることは、議会は「執行機能」を持たない、という意味でしかない。
 もっとも、議会は執行機能を持つべきではないのかは、必ずしも明確ではない。そもそも、「政策」と「執行」の違いは何なのかがはっきりしないと、この点は回答のしようがない。とはいえ、例えば、ある契約を締結するかどうかを執行機能とすると、議会は議決事件として関与してはならないことになる。しかし、一定の契約は法定議決事件である(地方自治法96条1項5号)。もちろん、執行機関による契約に対する監視のために議決事件にしているのであって、執行機関だけで団体意思を確定できない仕組みになっているということである。このようにいえば、要は、議会機能は何とでもいえる。つまり、執行機能であり、監視機能であり、団体意思決定機能であり、契約後の具体的な行政実務の大枠を決めたという意味で政策創出・定立=政策形成機能である。

議会機能自体を決める機能

 重要なことは、議会機能とは、よく分からないということである。よく分からないから、常に「議会は議会機能を果たしていない」という批判にさらされることになる。なぜならば、論者によって機能を測る物差しがバラバラだからである。さらにいえば、論者は自己の物差しを明示的に提示する必要すらない。こうして議会は議会不信を受けやすい。
 しかし、そもそも、議会はいかなる機能を果たすべきなのかということ自体を決めることが、最大の議会機能なのである。このようなタイプの機能を、メタ機能・メタ決定という。議会はこの点に自覚的にならなければならない。法定事項や判例・実例・先例や三議長会への意見照会や学説では、必ずしも解決にはならない。それぞれの自治体議会自身が、住民代表として自主的に決めなければならないのである。全国の地方議会を対象とするこの『報告書』を一所懸命に勉強しても、答えは出てこない。【つづく】


(1) 『報告書』そのものに忠実に表現すると、「Ⅰ」とローマ数字が裸で記載されており、「第Ⅰ章」という表記ではない。しかし、本稿では、単に「Ⅰ」「Ⅱ」……では分かりにくいので、章立てとみなして、「第Ⅰ章」「第Ⅱ章」……と表記する。なお、同様に、以下の①~⑤の課題も、『報告書』本体には特に番号は付いていない。あくまで、本稿の便宜による付番である。
(2) この点が問われるのが、住民訴訟のいわゆる「4号請求」である。自治体の機関として行った意思決定は、通常は団体の意思決定と推定されるが、団体の意思決定ではないと否定するための手続であるといえる。

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