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2015.07.10 政策研究

土砂の流出を防ぐ木製小型ダムの威力

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元日本経済新聞論説委員 井上繁

 愛媛県西条市を2004年に襲来した台風21号では、山間部で土石流や流木が発生し、それらが橋脚に引っ掛かって中小河川が氾濫するなど大きな被害を受けた。この被災経験を教訓にして、西条市は災害に強いまちづくりに取り組んでいる。
 土砂の流出を防ぐ木製小型ダムの設置はそのひとつである。ダムといっても、水を貯(た)めて発電や農業用水に使うわけではなく、土砂や石の流出を防ぐことだけを目的にしている。土砂などの落下は山の上の方では少なく、粒も小さい場合が多い。それが沢沿いに流れていくうちに雪だるま式に大きくなり、土石流となって建物を押し倒したりする。このため、土砂の流出を発生源で食い止めようという寸法である。
 市は、土石流による被害が拡大している一因は、山林の荒廃にあると考えている。この事業は、放置されている人工林を健全な山林に回復させるために、放置林などの間伐を促進し、間伐材の用途を広げて林業振興に役立てるねらいもあった。同市は、谷川沿いの放置林を所有者の同意を得て、市の事業として間伐する水源の森整備事業にもここ数年取り組んでいる。
 2007年に第1号として設置した木製小型ダムのひとつは黒瀬地区に建設した。高さ1.8メートル、長さ5.1メートルの同型のダムを10メートル程度離して上流と下流に1基ずつ設置した。1か所50本の杉の丸太を積み重ね、接合部はスクリューボルトで留めた。中央部には、幅1.3メートル、高さ80センチメートルの水路を設けた。
 市はこれまでにこれを含め30基の木製小型ダムを設置した。すべて民有地に設けており、地権者などの理解を得て、土地や材料の間伐材などは無償で提供してもらった。木製小型ダムは関西や四国などを中心に建設されているが、西条市の場合は、現地で調達した間伐材に必要最低限の手を加え、原木の状態で使い、その近くの現場で直接築堤するのが特徴である。
 同市は、設置当初、木製ダムの耐用年数を10年と想定していた。黒瀬地区のダムは間もなく建設してから8年半が経過する。市林業振興課の職員に同行して現地で確認したところ、ダムの周辺には草木が茂っているものの、ダム本体が老朽化している様子は見られなかった。
 同課では「よく見ると辺材は朽ちているが、芯がしっかりしているので、まだかなり持つ」(上野友治農林水産部林業振興課長)と見ている。10年は経過していないものの、木製ダムは丈夫で長持ちして威力を発揮することがほぼ実証された形である。
 設置の最初の頃は、小林正美京都大学大学院地球環境学堂教授(当時)から技術的な指導を受けた。水が通り抜けるように丸太の間に砂利を詰める構造にしたため、水の貯まらないことが芯の劣化を防ぎ、ダムが想定以上に長持ちしている、というのが関係者の見方である。
 施工に当たっては標準的なモデルがないため、試行錯誤の連続だった。最初の頃は不ぞろいの間伐材を使い、材料をつなげるのに苦労した。当初は丸太の表皮を剥がさず、そのまま使用したため、皮の内側に虫がすみついたこともあった。これに気がついて、2009年以降の工事では皮をむく加工を施している。
 コンクリート製の砂防ダムは数千万円から億単位の総工費がかかる。これに対し、木製小型ダムで用地買収を行わない“西条方式”の場合、工事費は1基100万円であり、コストは大幅に低い。間伐材の有効活用に加え、土石流や流木の流出を防ぎ、流水中の有害物質をろ過する機能も持つ。生態系に優しく、周辺の自然環境になじみやすいといった利点もある。
 だが、丈夫で長持ちといっても木製小型ダムには限界がある。コンクリート製ダムに比べ耐久度は低く、設置場所も上流部や小渓流に限られる。大きな土砂が流れることが想定される中・下流域では不向きであり、大型の土石流の流出を防ぐコンクリート製の砂防ダムも同時に整備していく必要がある。大事なのは両者のすみ分けである。

雑木で覆われた西条市黒瀬地区の木製小型ダム(右下が丸太を積み重ねたダムの一部)。雑木で覆われた西条市黒瀬地区の木製小型ダム(右下が丸太を積み重ねたダムの一部)。

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