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2015.05.25 議会改革

選挙啓発という無駄

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啓発運動に効果があったら長続きできない

 一般に、投票率の高低は、選挙結果にある程度の影響を与えるともいわれる。というのは、固定票・組織票、あるいは「固い支持票」と、浮動票あるいは「やわらかい支持票」があり、投票率が低ければ前者で選挙戦の帰趨が決まり、投票率が高ければ後者も含めて帰趨が決まる。前者と後者で投票行動にずれがある場合には、投票率が選挙結果を左右する。こうなると、投票啓発は、一見すると「どの候補でもいいから投票に行こう」という「中立」的な呼びかけでありながら、実際は、浮動票に期待する候補者に有利な肩入れを行うことである。したがって、投票啓発は決して中立的ではあり得ない。
 もちろん、これは固定票と浮動票で、候補者や党派の選好が異なることを前提にした推論である。実際に差異があるかどうかは、事後的に実証するしかないのであって、啓発運動のときには、どの候補どの党派に有利に作用するかは一義的ではない。しかし、影響がありうる。すると、固定票に依存する候補者・党派は、もし投票率が上がって、自身や自党派が不利に扱われたと感じれば、事後的に不平不満をいうようになろう。つまり、選挙啓発に効果があれば、間違いなく、固定票に依存する安定した選挙基盤を持った政治家から、攻撃を受けることになる。
 したがって、効果のある選挙啓発は、政治学的持続性がない。効果のない選挙啓発のみ、堅い選挙地盤に支えられた有力政治家も黙認してくれるので、政治学的持続性がある。つまり、そのような効果のない啓発活動への政治的風当たりはない。しかし、投票率向上にとって効果はないから無駄な作業である。無駄だからこそ実施することができる。無駄でないことは実施できない。これが、日本政治・行政にしばしば見られる不条理であるが、ここでも不条理から逃れることができていない。

啓発したくない候補者/啓発できない候補者

 そもそも、候補者は平穏無事な無風選挙を好むものである。最大の選挙啓発は、接戦を繰り広げることである。競輪・競馬・競艇のように賭け事にしなくても、そもそも、実力伯仲する人たちの真剣勝負を観覧することは、「楽しい」ことである。だから、スポーツが、賭博とセットになっていないにもかかわらず、あるいは、賭博とセットでないがゆえに(1)、興行として成り立つのである。
 選挙も、真剣勝負の白熱した戦いが見られるのであれば、公営競技として、多くの人は関心を持つ。大物に「刺客」が送り込まれ、万年与党に万年野党が政権交代を目指して挑戦すれば、必然的に投票率は上がる。したがって、住民が「楽しむ」事態は、候補者としては避けたい事態なのである。接戦はしたくはないのである。つまり、候補者はできれば平穏無事で当選できる戦いをしたいのである。
 もちろん、浮動票に期待する候補は、投票率が向上しない限り、当選の見込みはないのであるから、選挙啓発をしたいだろう。しかし、最大の選挙啓発は、こうした浮動票に期待する候補者が、固定票に依存する候補者を追い詰めて、接戦になっているという状態をつくることそれ自体である。自身がそうした選挙情勢をつくれなければ、結局、啓発もできない。要は、鶏と卵の関係のようなものであるが、浮動票に期待するという泡沫(ほうまつ)候補であることそれ自体が、啓発の足を引っ張るのである。
 とはいえ、プロ・スポーツの選手が、白熱した戦いを嫌って、だらけた試合をするようになるかというと、必ずしもそうではない。だから、候補者も政治という競技の選手なのであるから、「だらけた試合」を生理的に好まないという面もあろう。実際、生理的にも、全身全霊で選挙を戦うと、候補者は「ハイ」になって、ますます気分が高揚するともいう。しかし、選挙戦で「善い試合」を見せるより、当選という「勝利の美酒」の方が重要である。激しい選挙戦を制して勝利すれば、美酒はよりうまいであろう。しかし、「善い戦い」をしても落選=敗北してしまえば、苦い酒にしかならない。勝ってよし、負けてよし、ではない。「敗北に美酒」はないのである。したがって、候補者にとって選挙啓発は、適度な範囲で抑えたいのである。

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