2015.01.10 政策研究
観光都市の人気投票で世界一の京都市の快挙
元日本経済新聞論説委員 井上繁
米国の大手旅行雑誌のひとつである『トラベル・アンド・レジャー』誌が毎年行っている世界の人気都市を決める読者投票「ワールド・ベスト・アワード2014」で京都市が、2位の米国チャールストン、3位のイタリア・フィレンツェを抜いて1位に選ばれたのは快挙である。
京都市は、同じ調査で2012年は9位、2013年は5位だったから、3段飛びでトップの座を射止めた形である。
その兆候はあった。2013年の観光客数は5,162万人、観光消費額は7,002億円、外国人宿泊客数は113万人と、いずれも過去最高を記録した。外国人では、欧米からのセレブや知識人の個人旅行が多いのが最近の傾向である。来訪した人が良い印象を持って帰国し、友人などに語ったことが、京都への憧れとなり、投票につながったと見ることもできる。
確かに、京都には、二条城、清水寺、金閣寺といった世界文化遺産をはじめ、観光客に人気の歴史的遺産は多い。だが、それは今に始まったことではない。
京都の人気が高まったのは、京都市が日本政府観光局と連携して海外プロモーションを強化してきた成果でもある。『トラベル・アンド・レジャー』誌は、発行部数約100万部の月刊誌である。北米の富裕層を中心に、世界的にも強い影響力があるとされる。京都は、同誌で紹介されたこともある。
為替相場が円安の傾向にあることが訪日客や、地方都市への訪問客の増加に貢献した面もある。ユネスコが2013年12月に和食を無形文化遺産に登録したことも、伝統的な懐石料理を得意とする京都にとって追い風となった。
こうした背景に加え、注目したいのは、インドのモディ首相と門川大作京都市長とのやりとりである。2014年夏に、就任後初の外国訪問先として日本を選んだモディ首相は、東京での首脳会談前に、希望して京都を訪問した。和服姿で出迎えた門川市長に対し、モディ首相は「歴史や文化を大切にしながら近代化した京都から成長モデルを学びたい」と語った。
これに対して門川市長は「近代化する上で大切なことは、まちの個性、環境保護、家族や地域のコミュニティ」と応じたことを、2014年秋に同地で開かれた日本都市学会大会の基調講演の中で自ら明らかにした。
門川市長は2008年に就任以降、その旗を振ってきたから説得力がある。まちの個性は、都市景観などである。京都には、歌にも詠よまれた優れた眺めが残っている。これを保全するため、2007年に新景観政策を打ち出している。眺望景観については、市内38か所を「視点場」に指定し、そこからの眺望と借景を守ってきた。建物の高さは最高31メートルに制限した。今でも、例えば賀茂川右岸から大文字が見えるのはこのためである。
都市景観保全のもうひとつの柱は屋外広告物の規制である。同市屋外広告物条例を改正して、建物の屋上看板や点滅照明の広告物を全面禁止とした。規制区域ごとに掲示できる広告物の高さや大きさ、色彩、面積の基準を制限するなど全国でも異例の厳しい内容である。
条例が完全に施行された現在では全体として違反看板が減り、街並みがすっきりしている。金融機関やコンビニなど全国展開する企業の看板もこの土地だけは小振りで落ちついた色彩のものに替わっている。
その成果は、来訪客の満足度にも表れている。同市が実施した2013年京都観光総合調査の観光客満足度によると、外国人観光客の98.3%が「街のきれいさ・清潔さ」に満足していた。
環境保護では、過度な車中心社会から脱却し、人と公共交通を優先する「歩くまち・京都」憲章を2010年に制定するなど低炭素型まちづくりを進めている。
家族や地域のコミュニティはどうか。『トラベル・アンド・レジャー』誌の読者アンケートのコメントには「英語を話せなくても、英語を話せる誰かを探したり、旅行者が行きたい場所まで案内してくれたり。何とか旅行者を助けようとしてくれる」という記述のあったことがある。こうした親切な対応はひとりでできることではない。家族や地域のコミュニティがしっかりしていればこそ可能になることだろう。
快挙の背景には、こうした積み重ねのあることを忘れてはなるまい。
外国人にも好評な、小ぶりで落ち着いた看板の店が多い京都市中心部